本書の著者はこれまで『新憲法の誕生』(後に増補改題して『日本国憲法の誕生』)、『「平和国家」日本の再検討』などの著作を通じて、日本国憲法制定過程を実証的に明らかにし、特に「9条」が天皇制の存続、昭和天皇の訴追回避、沖縄の分離をセットとするマッカーサーの(アメリカ本国ではない)戦略の帰結であったこと、「押し付け」論によって必ず引き合いに出されるGHQ草案が在野の「憲法研究会」の憲法草案の強い影響下に作成されたことなどを論証したが、本書ではGHQ草案にも政府案にも存在しなかった「平和を誠実に希求」の文言がいつどのようにして「9条」に盛り込まれたか?という問題を、従来の研究では全く顧みられなかった東京帝国大学憲法研究委員会の動向の分析等を通して、一定の回答を与えている。著者の旧説をかなり修正している部分もあり、ある程度の史実と研究史を知らないと理解しにくい箇所も多いが、これまで憲法学や歴史学において見逃されていた論点・課題をいくつも提起しており、憲法制定過程に関心のある者ならば必読の書であろう。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
歴史(近代・現代)
- 感想投稿日 : 2015年9月29日
- 読了日 : 2015年9月29日
- 本棚登録日 : 2015年9月29日
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