ザ・フェデラリスト (岩波文庫 白 24-1)

  • 岩波書店 (1999年2月16日発売)
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感想 : 15
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18世紀の終わり、英国からの独立戦争を経て独立を果たした米国では、それまでの「連合規約」をさらに強固にすることで合衆国を作るべきだ、という機運が高まり合衆国憲法案が作られます。しかし本書の解説にもあるように、恒常的な中央政府を作ることについては、根強い懐疑論もあったとのことで、その懐疑論に反論するため、また憲法案の理解を進めるために、ハミルトン、マディソン、ジェイという3人を中心に新聞紙上で合衆国憲法擁護論を展開したのが本書になります。その意味で、本書を読み進めるにあたっては当時の人々の立場になる必要があるかもしれません。私が当時の米国に住んでいたなら、またやっとのことで英国からの独立を勝ち取ったという状況下で、この憲法案に賛成するだろうか、という視点です。

一般大衆を説得すべく新聞向けに書かれた文章ですので、文章自体はわかりやすいのですが、当時の文脈がわからないとわかりづらい点もあります。しかしかなりの部分は訳注によって理解ができるよう配慮されていました。本書を読んで感じたのは、論考全体が醸し出す「リアリズム」と「ユートピアニズム」の絶妙なバランスです。E.H.カーは両者のバランスの重要さを強調していますが、ハミルトン他の論考を読むと、基本的にはリアリズム重視である。つまり英国、フランス、スペインなどの欧州大国からいかに自分たちを守らなければならないか、ということで、ベースとしてはそこを強調しながら合衆国憲法案を推している。しかしそれだけではなく、この憲法案を通じて構築される連邦国家は世界にいまだ存在しない人民主権の初めての国になるだろう、それを我々が成し遂げようではないか、ということでユートピアニズム的な(あるいは理想主義的な)姿も示すことで人民の支持を得ようという姿です。200年以上前に作られた政治体制案が現在においても基本的には機能していることに驚嘆しましたし、足元の米国を見ても、トランプ政権が憲法に反するような立法行為を行おうとしても司法当局がそれを却下する様を見ると、まだまだ米国は機能しているぞ、と逆に感心してしまう次第です。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2023年4月30日
読了日 : 2018年5月13日
本棚登録日 : 2023年4月30日

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