ネットは社会を分断しない (角川新書)

  • KADOKAWA (2019年10月10日発売)
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日本で実施した10万人規模のアンケート調査を通じてわかったことをまとめている本になります。ですからこれは「日本」についての結論だ、ということを念頭に置く必要があるでしょう。まず著者は、ネットに関する一般的な社会通念を提示します。それは「ネットが社会を分断する原因である」というものです。例えばフェイスブックなどのSNSでは、行動ターゲティングといって、ユーザーのプロフィールや思想・価値観を分析し、それにあったニュースや製品・サービスを当該ユーザーに提示するので、ユーザーは偏った情報にばかり晒されるようになって(※これを「選択的接触」と呼ぶ)、自分の信念がどんどん強化されるだろう、というロジックです。「エコーチェンバー化」とも言いますが、思想・価値観が似通った人ばかりがネット上では集まるので、あたかも自分の声が屋内で響き渡っている(エコーしている部屋)かのようになる、という現象です。つまり右寄りの人はより右寄りに、左寄りの人はより左寄りになって社会が分断化される、という論調です。

このような考え方に対して、著者は10万人規模のアンケート結果を通じて、「ネットは社会を分断しない」(むしろ穏健化させている可能性すらある)という結論を提示します。詳細は述べませんが、たとえば若者は中高年よりもネットをたくさん利用するけれども、若者ほど思想が穏健化(中庸)であることがデータで示されます。また確かに「ネット利用」と「思想の極端度」は相関があるけれども、「ネット利用」が「思想の極端化」につながるという因果関係ではないことを示しています。むしろ因果関係は逆で、極端な思想を持った人(高齢者が多い)がネット利用を始めて、その考えを披露するのだ、ということを2時点のアンケートを通じて主張します。またネットでは、自分の思想とは逆陣営とみられているメディア(ブログ、ツイッター他)にも40%くらい接触しているということで、上の仮説が述べているようなエコーチェンバー化は(少なくとも日本では)起こっていないと結論付けています。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2023年5月4日
読了日 : 2020年1月28日
本棚登録日 : 2023年5月4日

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