両利きの経営(増補改訂版)ー「二兎を追う」戦略が未来を切り拓く

  • 東洋経済新報社 (2022年6月24日発売)
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2022/7/13
イノベーションのジレンマでも語られている通り、優良企業は持続的イノベーションができているからこそ、破壊的イノベーションができない。短期的視野に立ったときに破壊的イノベーションは市場規模が小さいにもかかわらず多くの投資を必要とするため合理的で優秀なマネージャーは破壊的イノベーションに手を出さない。本書のなかではサクセストラップとして語られている、持続的イノベーションと破壊的イノベーションでは必要とされる人材、スキル、KPI、プロセス、要するに組織能力すべてが全く違うのであり、持続的イノベーションを起こすための調整は破壊的イノベーションを阻害する調整でもある。
2つのイノベーションの両立の難しさの論理は引き継ぎつつ、既存事業をもつ優良企業が破壊的イノベーションを起こすためにどうすればよいのかという問いに対して、クリステンセンはスピンアウトすればよいという短い回答だったが、本書では既存事業の深化と新規事業の探索を両立させる両利きの経営をすることの重要性をといた。両者を適切に分離して新規事業が独自の意思決定と組織能力を培えるようにしつつ、既存事業の顧客、技術、バックオフィスといった資産にアクセスして単独のスタートアップに対する優位性を確保しなければならないからである。ここではstrategic positioningだけでなくorganization capabilityも重視されている点に留意したい、破壊的イノベーションができなかった企業はその重要性に気づかず戦略を持たなかったのではなく、戦略を持ちつつそれを実行するために適切な調整を行う組織能力を持たなかったためである点が強調されている。
両利きの経営の要点は下記4点である
①既存事業で培った資産を活用する新規事業戦略。これは既存事業と新規事業の協力を促すために必要
②経営陣の保護や支援。新規事業に対する投資とこれに関わるメンバーの評価・報酬を適切に与えないと既存事業は自分たちにとって邪魔な新規事業を潰してしまう
③組織的アーキテクチャ。CEO直下にするか経営ボード直下にすることで既存事業からは切り離しつつその協力は得られるようにすることが必要。探索フェーズ終了後も儀礼的な管理プロセスが続かないように投資、EXITに関する規律も必要。
④組織的アイデンティティ。グループで共有する価値観は①のロジカルな側面に対して、エモーショナルな側面で協力のために必要
またなにより両利きの経営の実践にはリーダーシップが必要である。下記の3点が重要
①リーダーは自ら戦略と両者を統合するアイデンティティを語り経営幹部を巻き込まなければならない、決して戦略だけを決めてその後を人任せにして成功することはできない。
②対立を明らかにしつつその葛藤を議論して建設的に乗り越えるようチームを導く必要がある。そうしないと重要なことから目を背け、儀礼的なアジェンダで時間を消費する会議が蔓延するようになる。
③深化と探索は本質的に異なるものであり、両者で求めることが違うことを理解して一貫して矛盾した対応を取り続ける必要がある
・カタログ販売から百貨店への移行に成功したがそこからカテゴリーごとのディスカウントショップやECに破壊されたシアーズ。
・フィルム市場の消滅と運命をともにしたコダックとヘルスケアやプリンター事業への移行に成功した富士フイルム。
・DVDの郵送からストリーミング配信企業に移行して成功したネットフリックスと、その存在を認知しながら軽視し、ビデオレンタルショップの衰退と運命をともにしたブロックバスター
・書籍コマースから総合コマース、物流、クラウド事業に移行したアマゾン、ハードからソフトウェア・サービスに移行したIBM、新聞・テレビからネット配信に移行したUSAトゥデイが成功事例として紹介されている

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2022年7月14日
読了日 : 2022年7月11日
本棚登録日 : 2022年7月11日

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