総力戦とデモクラシー (戦争の日本史 21)

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  • 吉川弘文館 (2007年12月14日発売)
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「二十世紀の起点としての第一次世界大戦」という位置づけのもと、その戦いの中で反戦を貫き通したロマン・ロランの思想を中心に大戦中も絶えることなく広がりを見せた「反戦」「平和」の価値を見い出す一書。最終的には国民国家を超えた世界市民主義的な社会体制の見通しについても触れている、と思う。世界史的な見地から第一次世界大戦における日本の位置を考える、ということでとても興味深い。

第一次大戦および帝国主義がいかにエゴイスティックなものであるかを描き出す部分には共感を覚えるのだけど、最後のほうで出てくる「人間的インターナショナル」とかを直接的に評価(しているように思える)するのはちょっと早急に過ぎるかな?という印象。ある意味で楽観的な近代主義的個人主義に依拠しているロマン・ロランの「人間観」に支えられた世界市民主義は、個人の前提となった「主体」が揺らいでいる現状においてまだ有効たりうるのであろうか・・・という一抹の疑念は拭えないのである。

しかしそんなことは著者もたぶん百も承知だと思う。歴史の本(しかも「戦争の日本史」だ)という制約なのだから、デモクラシーの今日的可能性について論を展開しなかったのは当然だろう。というわけで、この本の「その先にあるもの」について、気になってしまったのでした。あ、もしかしたらこれは歴史学が今日的課題にいかに対応できるか?という疑問と同義かもしれないなあ。

関係ないですがp57が「井上薫」になっています。本来は「井上馨」。誤植ですな。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 歴史
感想投稿日 : 2008年4月27日
読了日 : -
本棚登録日 : 2008年4月27日

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