帯に「毛利翼という大学生が、殺人の罪で逮捕されていた」とある。そしてこのタイトルから、彼が「誰かの身代わりになった」ものと思いこんだ。また、帯の「最も純粋で哀しい献身」「号泣」という字面から、かなり期待値の高いスタートとなった。
物語は現在と過去を繰り返して展開。現在は卓球大会の会場だ。毛利翼という無名の中国選手の存在から「日本人毛利翼」が浮かび上がり、両者は同一人物なのか、という疑問が突き付けられる。この後、毛利翼が養護施設に預けられた背景、小学校時代、卓球に明け暮れた時代に、現在の試合を挟みながら物語は進む。
鍵となるのが最初に毛利翼を助けた「羽根雅人」だが「イケメン、積極的すぎる人助け」という人物設定以外、彼の情報量は極めて少ない。けれども彼は徹底して翼の陰の応援者。まるで金銭以外の「あしながおじさん」だ。毛利翼が彼の影響を受け、後に積極的に人助けをするあたり、まるで父子のよう。それはおぼろげな翼の記憶にもあり、読者としては翼の中に羽根を見ているような気分でもある。終盤、羽根自身翼の影響を受けて身の振り方を決めたことがわかり、ドラマだからこその劇的展開、と言えるだろうか。
翼が卓球をするきっかけとなった啓介の存在は大きい。翼が成長していく過程で出会った人びとはかけがえのない存在である。友情というテーマもある。しかし私の中ではそれ以上に「運命の出会い」が尾を引いている。思い返せばすべての出会いが運命ではないか。ぜひ羽根と翼の両者を引き合わせたい。
読書状況:読み終わった
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カテゴリ:
日本作家や行
- 感想投稿日 : 2023年7月8日
- 読了日 : 2023年7月8日
- 本棚登録日 : 2023年7月8日
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