宇宙検閲官仮説 「裸の特異点」は隠されるか (ブルーバックス)

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  • 講談社 (2023年2月16日発売)
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感想 : 6

量子重力理論ならプランク距離、プランク時間で考えるので特異点は発生しないかも?? 量子重力理論を学んでみたい。

以下ネタバレ:

巨大な星が重力崩壊して、電子の反発力で支えられず(白色矮星となれず)、中性子の反発力で支えられず(中性子星となれず)、さらに潰れ続けるのならば、支えるものがなく一点に無限大の質量が蓄積する時空特異点が出現する時空になってしまいます。そうなると、そこから先の未来については、物理法則は予言能力を失います。  もし、時空特異点が生じても、それがブラックホール地平面の内側での話であれば、外側の世界には影響が出ません。しかし、アインシュタイン方程式の解として得られる時空では、特異点があって、しかも地平面が存在しない解も「数学的に」得られているのです。

このようにブラックホール内部に隠されない特異点を、ペンローズは 裸の特異点(naked singularity)と呼びました。

ペンローズは、裸の特異点出現問題の現実的な解決方法として、 宇宙検閲官仮説(cosmic censorship conjecture)という次のような魅力的なアイデアを披露しました。 弱い宇宙検閲官仮説:ペンローズ(1969年) ・重力崩壊でできる時空特異点は、ブラックホールの内側に必ず隠される。 ・(より具体的には)現実的な物質が、物理的に適当な初期条件から重力崩壊するとき、発生する特異点は、ブラックホールの中に隠され、遠方の観測者はそれを見ることができない。


強い宇宙検閲官仮説:ペンローズ(1979年) ・現実的な時空の時間発展では、特異点の発生はなく、大域的双曲性をもつ。 ・(より具体的には)現実的な物質が、物理的に適当な初期条件から時間発展するとき、特異点は、遠方の観測者のみならず、ブラックホールに落ちた観測者からも見えてはならない。

「大域的双曲性をもつ」とは、初期値(コーシー超曲面)を設定すればその後の時間発展がすべて決まる、ということでした( 3‐2節の準備2)。初期条件を設定して、特異点の影響が及んでくる領域までは、アインシュタイン方程式は当然ながら将来を決定する方程式になっています。特異点が影響してアインシュタイン方程式が予知能力をなくすとき、その時空の境界を「 コーシー地平面(Cauchy horizon)」といいます。

ペンローズの提案を短くまとめると、弱い宇宙検閲官仮説は「ブラックホールの外にいる観測者は時空特異点の影響を受けない」というもので、強い宇宙検閲官仮説は、より強く、「ブラックホールの内部であっても、その特異点に到達するまでは特異点の影響を受けない」とするものです。言い換えると、家の中で裸になることには目をつぶろうというのが弱い宇宙検閲官仮説であり、家の中でも裸になることは許されないのが強い宇宙検閲官仮説です。

研究事例から、弱い宇宙検閲官仮説は破れている例が存在することがわかりました。しかし、球対称での重力崩壊や、ダスト物質の重力崩壊などは、かなり「特殊な設定」であり、ペンローズの意図したような「普通の状況」を考えることからは、まだ遠いと言えます。したがって、弱い宇宙検閲官仮説の成否はいまのところ結論が得られていない、とするのが妥当でしょう。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: キンドル
感想投稿日 : 2023年5月31日
読了日 : 2023年5月29日
本棚登録日 : 2023年5月4日

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