興亡の世界史 ケルトの水脈 (講談社学術文庫)

著者 :
  • 講談社 (2016年12月10日発売)
3.23
  • (1)
  • (4)
  • (5)
  • (3)
  • (0)
本棚登録 : 139
感想 : 5

「興亡の世界史」に入れるのはちょっと悩まれたのではないでしょうか。
栄華を極めたという史実が(見え)ない。
歴史の本を読んでいると時々姿を見せるけど、
主役として派手にふるまい関係者がそれを文書としてのこしたということがない。

読めない漢字や難しい単語はなかったのですが、
概念をイメージするのが大変。
もう少し後の時代の歴史本なら確実にカットされるような事項を
丁寧にたくさん載せている。
それって古い時代を扱う本にありがちですが、
「これ、ちゃんと読む必要あるかな、私。どうせ忘れるんだし」と思ってしまう。

それで、結局ケルトって?

「古代ケルト」は滅んだ。
だがそれはローマ人によって抹殺されたのではなく、追放されたのでもない。
ローマ文化に同化することによって、自らの独自性を喪失した。
より権威の高い文化に吸収されたのです。
とはいえ、同化によって自らのアイデンティティを完全に失ったわけではない。
ローマ文化の枠組みに取り込まれながらも、ローカルな自意識は保持し続けたのです。

また、ブリタニア島とヒベルニア島にローマの支配や足跡のなかった地域があり、
そこでは古代ケルト文化が同化されることなく生き残ったという見方がされてきたけど、
これをケルトと呼ぶべきかどうかいまだに論争が続いています。

古代ローマによる同化を免れた、伝統的には古代ケルト文化を引き継いだとされる「中世ケルト」。
この本ではこれをほとんど、ケルトという言い方を用いていません。
16世紀になってブリテン島の住民の先祖がケルト人だと語られるようになるにすぎないという、
近年の文献学的研究の成果を取り入れたからです。
この本では、キリスト教の流入によって、それ以前の民間信仰的文化がいかなる変容を受けたかを叙述の中心におき、ケルト性を強調していません。

「古代ケルト」「中世ケルト」に続いて「近代のナショナリズムの興隆とともに語られるケルト」というものがあります。
15~16世紀のガリアの発見からはじまり、18世紀のケルトマニア、19世紀後半のケルト学の誕生、
いずれも古代ケルトを自らの起源として考え、その探求とともに自らのアイデンティティを主張するケルトです。
ケルト学研究の進展によって古代ケルトのイメージが次々更新され、より鮮明で具体的なものになりつつありますが、
それを背景とした現代のケルト文化は過去のケルトとは全く別のものだと認識しておく必要があると。
もちろんその当事者には、古代から連綿と続く文化としての連続性が実感されている場合が多く、
そうした直観的意識を外部から否定する意味はないとは考えています。
古代ギリシアと現代ギリシア、古代ローマと現代イタリア、場所が同一で言語系統の連続性が認められる場合でも、その文化に隔たりがあるのに、
ましてケルトでは場所の連続性がない。
古代ケルトは大陸であり、現代のケルトはブリテン諸島が中心。
こうした時間的空間的距離を認識した上で、この本ではあえて統合的な叙述を行ったということになるそうです。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ☆世界史☆
感想投稿日 : 2018年4月7日
読了日 : 2017年5月28日
本棚登録日 : 2017年5月28日

みんなの感想をみる

ツイートする