須賀敦子を読む

著者 :
  • 新潮社 (2009年5月1日発売)
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本棚登録 : 68
感想 : 8
5

(2009.12.22読了)
須賀敦子の文章を読むとその文章の不思議な魔力に魅せられ、たちまちにその虜になり、ファンになってしまう。僕もその一人です。
この本の著者は、文芸春秋に勤めていたときに編集者の特権を活かし、須賀さんに会い、「コルシア書店の仲間たち」「ヴェネツィアの宿」の出版を担当した。何ともうらやましい限りです。僕が須賀さんの本を読んだのは、2003年ですので、すでに須賀さんは、あの世に旅立った後でした。何とも残念なことです。でも、著作は残りました。
まだすべてを読んだわけではないので、まだ新しい話が聞けます。

この本では須賀さんが生きている間に出版した5冊の本「コルシア書店の仲間たち」「ミラノ 霧の風景」「ヴェネツィアの宿」「トリエステの坂道」「ユルスナールの靴」と書きかけの「アルザスの曲がりくねった道」を読みながら、そこに何が書かれているのか、何を書こうとしたのか、何が書かれなかったのか、どのような表現方法をとっているのか、等、が書かれています。
須賀さんの著作を読むだけではわからないことが書いてあります。興味深く読めました。

●コルシア書店(11頁)
「生きるエネルギーの大半」を注いでいたというコルシア書店の活動に、須賀敦子自身がどうかかわっていたのかについて、この本ではほとんど語られていない
コルシア書店が「それ自体の歴史と思想」を持つという、その歴史と思想もまた明確に書かれているわけではない
●ナタリア・ギンズブルグ「ある家族の会話」(19頁)
自分の言葉を、文体として練り上げる。無名の家族の一人ひとりが、小説ぶらないままで、虚構化されている。
これは須賀敦子のエッセイの手法そのものではないか。
●「コルシア書店の仲間たち」(42頁)
一つの時代の、仲間たちとの日々をほとんど現在形で再現し、そうすることで須賀はその日々をもう一度生き直した。書き終えたちょうどそのときに、主人公ともいえるダヴィデ神父の死の知らせを受ける。
●須賀さんの文章の特徴(56頁)
一つは、文章の息が長く、ゆったりしていることだ。寄せては返す波のような呼吸がある。
二つ目の特徴は、カタカナの多用ということである。これは望んでそうすることではなく、西洋の人や物を語る対象にした場合には誰にも避けられないことだ。
私たちは須賀の文章の気品と優雅がカタカナに妨げられているとはほとんど感じない。
●「ヴェネツィアの宿」(73頁)
「ヴェネツィアの宿」は、雑誌『文學界』に1992年9月号から93年8月号まで1年間にわたって連載された。そして連載時のタイトルは「古い地図帳」だった。
古い地図帳と言うのは、父親が死の間際まで見ていた「戦後すぐにイギリスで出版された」地図帳のことだった。
父親のこと、そして父親と自分との関係を書くことがテーマとしてあった。
●パリ留学(94頁)
ヨーロッパに来たのは、文学の勉強をするためだけではないはずだった。戦後の混乱の中で両親の反対をおして選びとったキリスト教を、自分のこれからの人生の中でどのように位置づけるのか、また、ヨーロッパの女性が社会とどのようにかかわって生きるのか、学問以外にも知りたいことが山のようにあった。
●傘(130頁)
イタリアでは、学生を含めて、生活がぎりぎりという階級の男たちは傘を持っていない。
●貧困(153頁)
私は「トリエステの坂道」の家族の肖像の中に、貧困に対してたじろがない、また貧困を観念的に論じようとしない須賀敦子を見た。そのような姿勢は、須賀が長い時間をかけて身につけたものであり、おそらくは須賀の信仰に深いところでかかわっている。
●須賀さんのエッセイ(161頁)
須賀のエッセイは、内に「小説」を秘めているとも言うべき、きわめて独創的な作品である。
●影響を受けた作家(182頁)
ナタリア・ギンズブルグ、プルースト、ユルスナール、シモーヌ・ヴェイユ

☆須賀敦子の本(既読)
「ミラノ 霧の風景」須賀敦子著、白水Uブックス、1994.09.30
「コルシア書店の仲間たち」須賀敦子著、文芸春秋、1992.04.30
「ヴェネツィアの宿」須賀敦子著、文春文庫、1998.08.10
「トリエステの坂道」須賀敦子著、新潮文庫、1998.09.01
「ユルスナールの靴」須賀敦子著、河出文庫、1998.10.02
「遠い朝の本たち」須賀敦子著、ちくま文庫、2001.03.07
「地図のない道」須賀敦子著、新潮文庫、2002.08.01
著者 湯川 豊
1938年、新潟市生まれ
1964年、慶応義塾大学文学部卒業
1964年、文藝春秋に入社
「文學界」編集長、同社取締役などを経て、
京都造形芸術大学教授
(2009年12月23日・記)

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 随筆
感想投稿日 : 2009年12月23日
読了日 : 2009年12月22日
本棚登録日 : 2009年12月22日

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