渡り鳥と秋

  • 文芸社 (2002年3月1日発売)
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感想 : 2
4

(2006.11.09読了)(2006.10.17購入)
新聞の死亡記事の中に、エジプトの小説家でノーベル文学賞受賞者というのがあった。エジプトの遺跡を見て歩いた事はあるが、エジプトの現代がどのようであるかも興味があるので、小説を読んでみるのもいいかもしれないと思い、ネットで著作を検索して、手ごろな値段のものを注文して入手した。
この本は、1962年にアラビア語で書かれた作品ですが、1985年に英訳され、英語版から翻訳された本です。「コーラン」「アラビアン・ナイト」がアラビア語から翻訳されていますので、アラビア語のできる人は増えているのでしょうが、現代文学までは、まだ手がまわらないのでしょう。
小説の時代は、1952年から1956年までです。「この小説は、1952年1月にスエズ運河で起きたイギリス人兵士によるエジプト人警察官の虐殺に続く有名なカイロ大火の描写で幕を開け、腐敗役人の粛清などエジプト革命初期の大事件をたどり、スエズ運河の国有化及び1956年の英、仏、イスラエル三国による侵攻直後に幕を閉じる。」(242頁)
主人公は、エジプト政府の上級官吏、イーサーです。政変により解雇されてしまいますが、二年間の給料は保証されます。解雇される前に、将来性を買われて結婚することになっていた女性との結婚の話は、解雇とともに、解消となってしまいました。
従兄弟のハサンは、新政権に職を得て、昇進します。イーサーと結婚する予定だった女性は、ハサンと結婚してしまいます。
イーサーは、自分のカイロの住居を売ってしまいますが、住居の購入者の年上の娘と結婚します。その人は、料理の上手な人ですが、過去に数回離婚の経験があり、子どもができない体でした。お金には困らなくても、仕事のない生活は、精神的に落ち着きません。かといって、就職活動もするわけではありません。従兄弟のハサンが、職を紹介してくれると言うのですが、世話になる気はありません。
アレキサンドリアに一人で出かけ、知り合いたちのいない、国際都市で、のんびり過ごします。宿無しの娘を家に入れて関係を結びますが、妊娠に気付き追い出します。
数年後、その娘に子どもがいることが分かり、関係の修復を申し出ますが、断られてしまいます。自分の子どもに、生きる希望を求めようとしたのですが、いまさらうまくはいきませんでした。
エジプトは、イスラム教の国と思うのですが、宗教の話はあまり出てきません。他のアラブ諸国に比べて、宗教色が弱いのかもしれません。

著者 ナギーブ・マフフーズ
1911年12月 カイロ生まれ
1934年 エジプト大学(現在のカイロ大学)哲学科卒業
公務員として省庁勤めをしながら、作品を書き始める
1938年 処女作『狂気のつぶやき』を発表
1988年 ノーベル文学賞受賞
1989年 イランの故ホメイニ師が、小説「悪魔の詩」の著者の死刑を宣告した際には、その宣告を拒否するようイスラム世界に呼びかけた
1994年10月 イスラム過激派組織「イスラム団」に襲われ、重傷を負った
2006年7月に倒れ、頭部に損傷を受けて入院
2006年8月30日 死去、94歳

(「BOOK」データベースより)amazon
物語は、1952年1月にスエズ運河で起きたイギリス人兵士によるエジプト人警察官の虐殺につづく有名なカイロ大火の描写で幕を開けた―。これらエジプト革命初期の大事件をたどり、急速な社会、政治、および文化的変化を半世紀にわたって目撃してきたエジプトのミドル・クラスの関心と夢に焦点を当てたアラブ文学の傑作。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: エジプト
感想投稿日 : 2010年2月20日
読了日 : 2006年11月9日
本棚登録日 : 2006年11月9日

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