2012.1記。
日経の書評欄に掲載されていたのだが、評者の安藤礼二が絶賛。()「2011年がどういう年であったかを考える上で欠かせない書物となるだろう」というくらいの勢いだから只事ではない。
本書は村上春樹について論じているが文学論ではない。むしろ、大衆から圧倒的に支持されている表現作品一般から現代の思想的課題を読み取ろう、という試み。
かつて社会には圧倒的な強者(=たとえば国家=「ビッグ・ブラザー」)が存在し、それへの対抗・貢献という形の物語の中で個人は自我を認識したり抑圧されたりしてきた。が、今やネットワークの時代であり、そのような「圧倒的他者」はもはや存在しえず、無数の小さな正義・物語(=「リトル・ピープル」)が乱立する時代となった。
村上春樹は「1Q84」においてこの時代ならではの物語の構築を試みて失敗したが、商業的要請によって大衆の「気分」にもっとも敏感であるべきテレビ番組、とくにヒーロー番組である「仮面ライダー」が、むしろこれに成功しつつあるのだという。
うーん・・・「1Q84」は失敗作かもしれないが、それは目指しているものが「時代の描写」ではなく、「時代を超えた普遍性の獲得」にあるからなのではないだろうか・・・というようなことを(ハルキスト(笑)としては)考えなくもない。
補論の「ダークナイト(バットマン)」分析は本書の主張の裏付けとしても秀逸だし、戦時中の戦意高揚特撮映画を出自に持つ円谷プロが「ウルトラマン」を制作した一方、大映の時代劇チームの「殺陣」のノウハウをつぎ込んだのが(等身大のライダーがショッカーと大立ち回りを演じる)「仮面ライダー」である、といった小ネタの楽しさもある。面白い。
- 感想投稿日 : 2019年1月3日
- 読了日 : 2019年1月3日
- 本棚登録日 : 2019年1月1日
みんなの感想をみる