集団的自衛権の思想史──憲法九条と日米安保 (風のビブリオ)

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  • 風行社 (2016年7月16日発売)
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感想 : 11
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この問題に関心のある人にとっての必読書。
国際法の文脈で理解すべき自衛権(その場合は個別と集団とを分ける必然性は大きくない)を、憲法の解釈の文脈「のみ」で整理しようとすることによって噴出する矛盾。

私の解釈がやや入ってしまうかもしれないが、集団的自衛権行使反対を叫んだ人々は、結果的に米国との軍事同盟を強める方向に物事を動かしてしまった。
というのは、「集団的自衛権を持っているが行使できない」という解釈自体が、現行憲法のもとで米軍基地を国土に持ち続けることの矛盾をかわすためにひねり出された論理だからだ。そして悲しいことに、それはベトナム戦争のさなかの沖縄返還で論点になったことだった。

本来、憲法のもう一つの柱である国際協調主義の文脈で集団的自衛権を考えるべきであったのに、いつしか「(武力行使の)『最低限』なことが合憲で、『最低限』ではないものが違憲だという思想が、日本の憲法をめぐる議論に広範に染みわたっていった」(P173)。

このような解釈が定着する根源は、実は旧憲法の理論的牙城であった東大法学部のドイツ系「国家法人説」を、英米流立憲主義の色濃い新憲法においても援用した(つまり「国家自体を守る」という思考を許した)ことにある、との指摘にするどさを感じる。

保守もリベラルもないフェアな本。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 政治・経済
感想投稿日 : 2019年2月18日
読了日 : 2019年2月23日
本棚登録日 : 2019年2月18日

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