「教養」として身につけておきたい 戦争と経済の本質

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  • 総合法令出版 (2016年6月22日発売)
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歴史の授業で学ぶべき内容。地政学とかドライな国際関係など、前提として把握すべきことが簡潔に書かれている。

第一章
全世界のGDPの2.3%が軍事費。
GDPをあげたら軍事費もあげられる。
1976年三木内閣にて日本は軍事費をGDPの1%以内におさめる閣議決定。1986年に中曽根内閣がこの制限を撤廃したけど、実質的には継続されている。

第二章
日露戦争前後で米国資産家が日本国債を引き受けたのは、戦後日本が獲得すると予想された満洲ビジネスチャンスを狙ったから。
同様に、ミャンマーの民主化を欧米各国か推すのは、その後のミャンマー市場開放でのビジネスチャンスを狙っているから。
人権やら、現場の民衆の安全というのは表向きの理由であり、ドライな見方が正しい。
TPPの本質は、参加国の中で経済規模が大きい国が圧倒的に有利になること。ただし、日本国内の農業といった、ミクロな視点でいうと、グローバル化によって現状は維持できないのが明白。
原油が採れる、というのは核兵器並に有利なカードになる。米国が油田発見により、外部調達の必要性がうすれた。これにより、原油価格が下落し、ベネズエラのように輸出95%が原油であるような国の経済が落ちる。
原油はロシアからではなく米国から買え。

第三章
Y(GDP)=C(個人消費)+I(設備投資)+G(政府支出)
日本は
C:60% I:20% G:20%
日本に関係する戦時下においては、開戦時にGDPが上がるが、戦後に反動で下がる。
→日清戦争、日露戦争、太平洋戦争
日本に関係しない戦時下においては、ただただGDPが上がる。
→第一次世界大戦、朝鮮戦争
★朝鮮戦争の特需がなければ、現在の日本経済は存在していないと言える。
米国においても、戦争開戦時にGDPが上がり、後半で鈍化する傾向があるが、体力を超えるような軍事費を組むことはしなかったので、全体的には昇っていってる。
太平洋戦争による準ハイパーインフレでは、闇市の登場のせいもあり、物価が1940年から1950年で180倍になった。これは、国債の大量発行と供給制限の顕在化によるもの。

第四章
1946年、日本政府は預金封鎖と財産税の徴収を強行し、太平洋戦争によって発生した膨大な債務を処理することになった。つまり、国民の資産を根こそぎ奪う形で太平洋戦争の帳尻を合わせたことになる。
→ここは政府主導となっているけども、戦勝国である米国の意図が無かったとは到底思えない。
★1951年から1953年の朝鮮戦争のため、米軍から日本企業へ10億ドル以上の注文が入った。1ドル=360円とすると、3年間で3600億円はいることになる。1年で1200億円。当時の日本のGDPの3%に相当する金額が入ったことになる。
1955年には戦前の生活水準に戻っていて、1956年の経済白書では「もはや戦後ではない」という一文が盛り込まれた。朝鮮戦争特需(ドルの取得)のおかげ。

第五章
英国の地理学者マッキンダー「デモクラシーの理想と真実」
ユーラシア大陸の中央を「ハートランド」、その南の沿岸部を「リムランド」とする。チベット、ウイグルなどはハートランド所属。日本や韓国はリムランドに所属。

★中国がもともと漢民族の土地ではないチベットやウイグル、内モンゴルを制圧して侵略しているのは、ハートランドを支配下にすることの重要性を、地政学の面で十分に理解しているから。逆にこの場所を他国に取られることは致命的な脆弱性になる。
ただし、南にはチベット山脈、西には天山山脈があり、地理的な理由でそれ以上の進出は現実的ではない。

★ロシア、中国からみたときの日本はすごく邪魔。これを逆に利用しているのが英国や米国などの西側諸国。日本を防波堤にしておけば、ロシアや中国が太平洋に進出する速度をある程度止められる。これにより、西側諸国が太平洋の覇権を維持することができる。適当に人参ぶら下げて日本をペットにしておけば、人柱になってくれる。

★中国は、ハートランドのチベット、ウイグルを制圧してコントロールすることで、リムランド側の香港や台湾への制圧にリソースをさけるようになる。尖閣諸島や沖縄の内乱誘発など、太平洋進出ラインを巧妙に攻めているのが現状。

アフガニスタンはハートランドの中心なので、紛争はなくならない。
EUはドイツの封じ込めのためにある。けして理想的な経済圏ではない。
有効な輸送手段として空があるが、やはりコストを考慮すると圧倒的に海運が優れている。なので、海軍力が肝になる。
LINEは韓国資本なので、当然そこで蓄積された情報が韓国や韓国を通して中国に流れることはリスクとして存在する。
★自国のサービスをグローバル展開できない国が情報戦において不利になるのは地政学上の世界では常識。
ビットコインが怖いとか言ってないので日本も積極参加しよう。

★米国の外交戦略は、常に地政学的に決定される。決して日本への情とか無いから勘違いするなよ。全部リップ・サービスだから。朝鮮戦争やベトナム戦争だって、リムランド周辺をおさえることが目的なので、そこに「正義の心」など存在しない。

★基本的人権を尊重している米国だけども、基本的人権が無視されているサウジアラビアとはお友達。だって、地政学的には有益だから、レイプされたはずの女性を石打ちの刑にしているとか見えないですね。

中国のことを考えるときは、米国の視点を考慮すべき。日本はチワワなので、銃器フル装備の両国の方向性とか、カードバトルの行方を見て動くしか無い。悲しい。

第六章
米国の軍企業は、ダウ平均よりもパフォーマンスが良いが、乱高下が激しい銘柄。
専門企業であるロッキード・マーチンなどは、軍需部門の売上が全体の80%になってたりする、ピュアな軍需企業。そのため、戦時下の影響をモロに受ける。
一方、日本の軍需企業は財閥系が事業の一部でやっている。三菱重工で売上の7%。
米国の軍需企業と違い、戦時下の影響をモロに受けない代わりに、いわゆる民間の全体的な経済状況に影響を受けやすい。

「日本の伝統」だとされているようなものの多くは、太平洋戦争下の遺物である。
・国家総動員法により、企業の配当制限や株主の権利が大幅制限された結果、企業は「従業員のもの」というような風潮が強くなった。本来は米国型の資本主義社会だった。
・産業報国会が結成され、既存の労働組合が解体され、企業ごとの労働組合を組織するようになった。業種ごとの労働組合が本来の姿だが、これにより、中小企業の待遇が劣悪になった。
・隣組を作り、一連の強制措置を円滑に実施。町内会は隣組の名残。
・年功序列制度や終身雇用制度。
・新聞テレビ広告代理店の寡占的な事業形態。全国紙と地方紙の明確化、新聞社にニュースを配信する通信社も国策通信社である同盟通信に一本化された。同盟通信の広告代理店部門が独立して電通となっている。

1943年軍需会社法が制定され、政府が軍需会社として承認すると、直接政府の統制を受けることになるが、その分、政府が発注する3/4の資金を前受けすることが可能となった。つまり、軍需会社とされたら資金繰りに困らないし、バランスシートの総資産がどんどん増えていくことになる。

国際興業グループの小佐野賢治は、軍需会社に指定されたことを皮切りに、軍需省からの発注を受け、全国から自動車部品を買付けては納品する、ということをすすめ、資産を築いた。当然、大量のキャッシュを持つことで有利な交渉が可能となり、業績は伸び、さらにキャッシュがくるのでそれを公務員に賄賂として使って、さらに有利な発注を受けることを繰り返した。50億稼いだ。まさに戦争特需を活かした商才の塊。

マスメディアの歴史
理想)戦時下における政府の言論弾圧に断固反対し、言論弾圧の自由を求め争った!
現実)紙の配給を優先して受けたいので、決済権のある軍の将校を女や酒や金で接待して便宜を図ってもらっていた。

日本の占領下のフィリピンにて、任務でリゾートホテルに行くことになった山本七平は、そこで別世界を見た。フィリピン人や中国人資本家に取り入り、便宜を図ってもらって財をなしていた日本軍将校が混じっていたとか。物資調達の際、現地資本家の協力が必要となり、その目的で関係ができていたっぽい。

戦後の預金封鎖には抜け道があり、一定額以上の引き出しができない代わりに、株を購入する場合はその制限が解除された。これに目をつけたうちの一人、野村證券の元会長の田淵節也は、この抜け道を資産家や寺院に提案し、相当な利益をあげた。賢い。

第七章
モジュール化がはかどっているから、それらを組み合わせていくんだよ。
3Dプリンタで兵站(ロジスティクス)が捗る。戦車進軍して途中でぶっ壊れても、直せる設備をもっていける。
米軍入隊時には、体力だけじゃなくて数学力と読解力が求められている。らしい。
IT化している時代なので、新しいテクノロジーと金融システムの両者を制覇できた国が次世代の覇権国家となる。→中国!?

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2021年7月19日
読了日 : 2021年7月19日
本棚登録日 : 2020年5月7日

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