夜の鳥

  • 河出書房新社 (2003年6月21日発売)
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本棚登録 : 217
感想 : 42
5

酒井駒子の描く表紙の少年の後頭部が、妙に大きい。
ここに、不安がぎっしりと詰まっているとでも言うようだ。
そして、頭上に覆いかぶさるように大きな鳥がいる。これが、不安の象徴なのだ。

ノルウェーの小説だが、後書きによれば1970年代のオスロあたりかと言うことだ。
夕食後にも外に出る場面がいくつか登場するあたりは、白夜の季節から晩秋頃までが舞台のようだ。
教職を目指していたのに、出勤三日後には出勤拒否した父親。
その父親は家事もロクにこなせず、たびたびふらりと外出しては、夜間になっても帰らない。
母親は幼稚園の保母になりたかった夢があるが、今は一家の大黒柱として洋品店で働いている。
ざわめく心を反映するように、主人公ヨアキムの前に現れるのが「夜の鳥」だ。
両親のなにげない会話にも胸を傷め、ふたりへのあふれるほどの愛を持ちながら手を差し伸べるすべもないヨアキムが、痛々しく切ない。
凝縮された簡潔な文体で、きびきびと展開していく。
反面、随所に叙情豊かな表現があふれて、特に自然描写は美しい。
ヨアキムを取り巻く子供たちも、実に個性豊かだ。
子供なりの力関係、恐怖や嫉妬や憧れなどが盛り込まれて、読んでいて飽きない。
近所の大人たちの登場のさせ方も上手い。
続編があるそうなので、ぜひ読んでみようと思う。
しかし、大人とはなんと理不尽に子供を傷めつけている存在なのだろう。
ヨアキムを見て、自分の子供時代を連想する大人が少ないことを祈らずにいられない。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 児童書
感想投稿日 : 2012年9月24日
読了日 : 2012年9月24日
本棚登録日 : 2012年9月18日

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