戦艦大和と一万二百個の握り飯

著者 :
  • 柏書房 (2019年6月26日発売)
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感想 : 5
5

12月8日に合わせて読んでみた。
誰もが知っている「戦艦大和」の誕生から最期までを、もうひとつの動力源である「飯炊き兵」たちの視点から語るドキュメント。
「主計員」という最下層の兵から大和がどのように見えていたか。
旧軍での生活がどのようなものであったかを、プロのライターさんが怜悧な文章で描いている。
大和に乗艦した人々や戦中戦後の生活を送った人々の生の声も多く載せてあり、その語り口は非常に平明で読みやすい。
当時の写真も掲載され、巻末には一次資料の参考文献もある。

人がいれば必ず食餌をとる。
それは平時でも戦いのさなかでも変わらない。
そんなことを一度も思わなかった自分が、むしろ不思議でさえある。
2300人×朝昼晩=6900食分を賄う大厨房が、大和にはあったという。
最大時には3400人を超えたこともあるというその食の内容と、供する際の苦労や工夫が事細かにしるされる。

風呂釜のような炊飯器や食器の画像もあり、更には献立表まである。
一日の総カロリーが3300カロリーと聞くと、いくら何でも摂取量が多すぎかと心配してしまうが、現代のような食事内容ではない。
日露戦争時に海軍さんに脚気患者が急増したため主食は麦飯で、それも漫画のようなてんこ盛り。あとはみそ汁と漬物程度。
もちろん粉末の出汁など、この頃はない。
前の晩から水にいりこを投じて出汁をとり、出汁をとった後の昆布や削り節も天日干ししたのを醤油で煮しめて箸休めにしたという。

入港中でもお風呂は週二回の海水風呂だったとか、真水は浴槽につかる前と身体を洗う際と最後の流しの3杯のみ。「武蔵」には対空レーダーや航空通信設備があったが大和にはなかったとか、
いやそれよりも圧巻なのは「一万二百個の握り飯」の章以降だ。
すでに戦況は悪化の一方で、実戦のさなかでも「戦闘配食用意」が発令されれば何が何でもやらねばならない。
「戦闘配食」とはつまり「お握り」で、これを手で握って竹皮に包んでいく。
消毒して海水に浸けた軍手をして握ったというが、低温やけどで真っ赤に焼けたらしい。
しかもこれを、刻々と変化する戦況の中で「各班から受け取りに来るか、来られない場合は主計兵が配達する」という。更に配達も不可能な時は適当な場所に握り飯を置いたというのだ。7層にもなっている大和のデッキを、上に下に、右に左にと走り回ったということだ。
血みどろの戦いのさなか、どれほどの緊張感をもって任務を遂行したかは想像に難くない。

1945年4月7日、沖縄戦で最期を遂げた大和だが、その昼食は「銀シャリの握り飯」。
銀シャリが出ると聞いただけで兵員は万歳三唱したとある。
おそらくは生きて帰れまいと皆が知っていた、「ハレの日」の銀シャリだ。

それを愚かしいと笑うひともいるだろうが、フラットな視線でお読みあれ。
ここに書かれたのは賛美でも批判でもなく、細かな取材に基づいた事実である。
そして、戦争が終わっても食べるための戦いは続いていった。
大和生存者のうち、主計科は10名ほどだったという。
今ではもう知ることも出来ない人間のドラマがここにある。読み応えのある秀作。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ノンフィクション
感想投稿日 : 2019年12月9日
読了日 : 2019年12月8日
本棚登録日 : 2019年12月9日

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コメント 6件

やまさんのコメント
2019/12/09

nejidonさん
こんばんは。
いいね!有難う御座います。
野伏間の治助 北町奉行所捕物控 シリーズの8作目です。
長谷川卓さんの本は、「戻り舟同心」シリーズの新装版が出てから読み始めたのかな?
はっきりは覚えていませんが、新刊が出たら読んでいます。
読んでいて面白いです。
中でも一番は、「嶽神」の上下巻です。
真田忍者、伊賀忍者は出て来るは、そして武田家の遺金をめぐって壮烈な戦いです。
是非読んでみてください。
やま

goya626さんのコメント
2019/12/09

nejidonさんへ
ああ、凄い本ですね。私の母の兄(叔父ですね)が、戦艦大和の機関部に乗っていたそうです。祖父にいろいろ聞いておけばよかったと、今は思います。

nejidonさんのコメント
2019/12/09

やまさん、こんばんは(^^♪
時代小説のおすすめですか。ありがとうございます。
今はちょっとブームが去ってしまっていますが、そのうちまた
読みたくなる時がくるかと思います。
とりあえずは「いつか」という棚に乗せておきますね。

nejidonさんのコメント
2019/12/09

goya626さん、こんばんは(^^♪
これは図書館にリクエストして購入してもらった本です。
想像のはるか上を行く凄い本でした。goya626さんにもお勧めです。
大和の機関部ですか?!それは何という奇遇でしょう。
ああ、私もお話を聞きたかったですね。。

地球っこさんのコメント
2019/12/10

nejidonさん、おはようございます♪
胸に迫るレビューありがとうございました。
私には「ハレの日」の銀シャリの万歳三唱を愚かしいなどと笑うことなど出来ません。
最近つくづく思うのは、賛美や批判などなくとも綿密な取材や研究などを通して著者の真摯な姿勢で記された事実であれば、人の心を揺り動かすことができるということです。
事実が一方からの賛美や批判、そして虚飾や欺瞞に覆われることによって、本当に伝わってほしいこと、本当に考えなければいけないことが曖昧にされているのでは。
そして、私はそれをすぐに信じてしまう。

事実を知ることは、もしかしたら打ちのめされることの方が多いのかもしれません。
それでも事実を知り、そして自分の頭で考えること、それがとても大事だなと思っています。
事実はどんなに隠されても淡々と存在しているもの……かな。
nejidonさんのおっしゃる「フラットな視線」を意識したいです。
なんだかまとまりのないものになってしまいましたが、nejidonさんのレビューにはいつも考えさせられます。
ありがとうございました(*^-^*)

nejidonさんのコメント
2019/12/10

地球っこさん、こんばんは(^^♪
温かいコメントをいただいて、胸がジーンとしてしまいました。
このような本はレビューが難しいし、コメントも更に難しいかと思います。
ええ、まさかいただけるとは思いもしませんでした・笑

レビューにも載せた通り、「飯炊き兵」から見た大和のドキュメントです。
俯瞰した視点。豊富な資料。あくまでも冷静な語り口。
取材を元に描写したとはいえ、現場の有様がはからずも迫力を生みだしている点。
これまで読んできた大和関連の本の中ではこれが一番かと。
そこを、フィルターをかけずに受け止めて欲しくて、あえてあの一行を入れました。
私は、ドキュメントと知りつつ読んだのに、最期の場面では泣けてしまいました。
現在の価値観で安易に裁くべきではないと、つくづくそう思います。
知らないことが多すぎるからです。
仰る通り、事実を知ることが大切ですよね。
ひとは信じたいものを信じてしまうので、事実を前にしても受け入れる覚悟は必要ですが。。
この本、まだどなたもレビューを載せていません。不思議です。
もしも手に取る機会がありましたら是非ご覧になってくださいませ。
「読んだよー」と教えてくださったら、本当に嬉しいです♡♡♡
こちらこそ、ありがとうございました!
(手違いで削除してしまったので、もう一度載せました)

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