一気読み。ジャンルとしては、歴史改変ものとか幻想ものに入るんだろうけど、そうと意識させないジョー・ウォルトン独特の雰囲気がある。「図書室の魔法」のモリと同様、ここでもパトリシアに肩入れしながら読まずにいられない。
ある決断を境に、パトリシアの人生は二つに分岐する。二つの世界で彼女自身の人生は大きく異なるが、世界のありようもまたかなり違っている。それは私たちの「現実」と重なる所もあり、違うところもあり、そこに見え隠れする痛烈な文明批判も読みどころの一つだろう。
しかし、何と言っても読ませるのが、二人のパトリシアの歩みだ。どちらの世界でも、彼女は必死に生きる。過ちを犯したり、悩んだりしながら、子どもを育て、身近な人の幸福や不運、成長や死を経験し、大きな動き(特に戦争)に翻弄されつつ、ままならない人生を生きていく。それは決して特別なものではないが、彼女自身にとってはのっぴきならない、たった一度の人生だ。その感慨が胸に迫ってくる描き方だ。
二つに分岐していたパトリシアの人生は、ある残酷な形で重なり合うことになる。これは冒頭で暗示されているので、そういうことになるのだろうと思いながら読み進めてはいたものの、実に切なく、つらい。確かにあったはずの人生が、夢まぼろしのようにかすんでいくのを感じるとき、どういう思いが胸に去来するものなのか。想像すると苦しくなる。
解説で、本書は、個人の選択と世界の運命の関係についての物語でもあるという意味のことが書かれていたが、私はそれは深読みに過ぎるような気がした。バタフライ効果についての言及もあるが、それは物語の骨格となるものではないと思う。そういうことも含め、複雑な感慨を抱かせる、優れた一冊だと思う。
- 感想投稿日 : 2018年6月13日
- 読了日 : 2018年6月8日
- 本棚登録日 : 2018年6月8日
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