蝉かえる (創元推理文庫)

著者 :
  • 東京創元社 (2023年2月13日発売)
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本棚登録 : 579
感想 : 44
5

「サーチライトと誘蛾灯」に続く、昆虫オタクの青年・魞沢泉が登場する短編集。

前作も独特な雰囲気を持った面白い作品だったが、本作は前作にあった脱力するようなノリ突っ込みが適度に抑制され、全体的により洗練されたユーモアとペーソスを感じた。

■蝉かえる
女人禁制やセミ供養。女性から渡された別刷りのエッセイから過去の出来事と現在の人物がつながる推理が見事。

■コマチグモ
子グモに食べられる母グモ。水たまりに産卵しようとする赤トンボを驚かせるために石を投げ続けるシーンが面白い。少女が持つ優しさと隠している激しさが印象的。

■彼方の甲虫
スカラベ(フンコロガシ)のペンダント。たった一日で友情が出来上がる様子が微笑ましく愛おしく、その後に起こる事件がやるせない。

■ホタル計画
ゼブラフィッシュとホタル。サイエンス雑誌でつながる3人の登場人物の関係が切ない。意外性溢れた展開に驚く。詩情旅情も溢れこの話が一番好き。

■サブサハラの蠅
アフリカから持ち帰ったツェツェ蠅のさなぎ。病で大事な人を亡くした医師の心情が哀しく、彼を立ち直させる魞沢の不器用な友情が好ましい。第3話とリンクするところも友情の話として深みが出た。

5つの話ではそれぞれ立ち位置は違うものの、いずれも魞沢の人間性がよく分かる話になっており、加えて、昆虫に関する知識を駆使した謎解きというだけでなく、それが、地方に残るタブー、母子家庭の母と娘、外国人に対する偏見、遺伝子組み換え、顧みられない熱帯病といった背景とうまくリンクして各話の内容を豊かにしているように思った。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 2023年読んだ本
感想投稿日 : 2023年8月18日
読了日 : 2023年8月17日
本棚登録日 : 2023年8月18日

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