自民党長期政権の政治経済学―利益誘導政治の自己矛盾

著者 :
  • 勁草書房 (2010年8月12日発売)
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感想 : 11
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自民党がなぜ長期政権を維持できたのか、またなぜそれが崩壊したのかを学術的に考察した本。
統計学の知識がないとなかなかむずかしいですが、すっとばして読んでも面白いです。

以下、本書の内容から感心した内容・
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・有権者が自民党と他党を選択するのではなく、自民党にいかにして媚を売り、予算を付けてもらうかといった、逆説的な状況(逆説責任)が蔓延していたこと
・少ない投資(=少ない予算)で高いリターン(=高得票)を得るという図式は自民党にもあてはまり、中選挙区制度下の一票の格差問題から農村部での集票を重視
・高速道路や新幹線といった経済効率の高いインフラを整備する前までは有権者は選挙を熱心に応援するが、完成がわかってしまうとそうではなくなる。つまり、予算付けをするまでは他地域との競争があるが、付いてしまって完成してしまえばだれでも利用できるため、票を入れそうな人だけに便益を与えることが難しくなる
・よってインフラ整備が整った地域では自民党の地盤が浸食される(例:新潟県)
・同様のことは、小山市VS足利市、八戸市VS弘前市、上田市VS鶴岡市と言ったところで見られ、前者は新幹線が来たところで自民党を離党した議員、後者はそうでない地域である
・93年の非自民政権成立前後で自民党を離党した議員のうち、交通網整備の遅れた地域の議員は自民党が復調するとともに自民党に入党した。交通網の発達した地域はそうではない(前項の各市選出の議員達がまさしくその事例)
・加藤の乱も、加藤が鶴岡選出だったため、離党できなかったという見立て
・一方で土地改良事業、ダム建設などは継続的かつ私的な供与の意味がいが強いため、整備したとしても自民党への集票が減るわけではない
・交通インフラの拡充、市町村合併による地方議員(=選挙の人手)の減少及び投票行動監視が困難になったこと、小選挙区制導入により自民党の基盤は浸食した

そして恐ろしいことに、公共事業に金を費やしたものの、便益の低い事業にまわり(ダム建設、土地改良工事など)、経済成長には寄与しなかった事実・・・。

第6章以下だけ読んでも十分面白いです。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 政治
感想投稿日 : 2012年8月18日
読了日 : 2012年8月18日
本棚登録日 : 2012年8月18日

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