福祉は誰のためにーソーシャルワークの未来図 (へるす出版新書025)

  • へるす出版(not use) (2019年8月26日発売)
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本来の福祉とは何かという問いをソーシャルワーカーの視点から著された共著。最後に対談で、それぞれの考えがすり合わされている。共通するのは日本の福祉は施しとしての福祉から脱しておらず、権利としての福祉の理念が薄いということである。社会福祉士などの制度化が更に拍車をかけ、教育で、社会福祉の理念や哲学が教えられなくなり、制度に合わせたノウハウばかりが語られるようになっている。この現状を変えるためには、闘う視点が重要であり、現代的に言うとアドボケイトの視点である。
印象に残った記載を記述する。
上野千鶴子のいうケアのブリコラージュ、(少ない人数・限られた情報・低い賃金・見直されない組織体制でよいケアをしようとすること)という言葉で表されるように、現行制度内において、低待遇であるにもかかわらず、業務改善や向上をくり返すことで、制度そのものを無意識に肯定化し、「本来の福祉」が実現されない社会の構造的問題を、現場の問題に矮小化してしまっている。
福祉専門職は当事者側にあくまで立ち続け、その自由や生活を拒む者たちと闘うことが宿命づけられているが、懸命に働いているだろうか。まずは苦しんでいる人々への飽くなき権利擁護から、ソーシャルワークの復権は始まる。
アドボカシーは当事者と一緒に議論し、政策をまとめ、行動して働きかけていくということ。
エンパワメントがなければソーシャルアクションは成り立たない。
ソーシャルワーク専門職のグローバル定義とは、「ソーシャルワークは、社会変革と社会開発、社会的結束、および人々のエンパアメントと解放を促進する、実践に基づいた専門職であり学問である。社会正義、人権、集団的責任、および多様性尊重の諸原理は、ソーシャルワーカーの中核をなす。ソーシャルワークの理論、社会科学、人文学、および地域・民族固有の知を基盤として、ソーシャルワークは、生活課題に取り組みウエルビーイングを高めるよう、人々やさまざまな構造に働きかける。この定義は、各国および世界の各地域で展開してもよい」
日本において、福祉給付の質と量および所得制限、自己負担に関しては、自己責任主義の内面化と自己責任主義に彩られた社会保障政策の展開がもたらしたもの。
私達が希望を見出すためにすること。第一に普遍主義、つまり福祉給付の全てにおいて私達の「必要」を満たす方向で社会保障を充実させること。つまりはナショナルミニマム論の議論か。第二に現状に対する異議申し立てをすること。ソーシャルワーカーの待遇も含めてのことである。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2019年11月30日
読了日 : 2019年11月30日
本棚登録日 : 2019年11月30日

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