メルケル 仮面の裏側 ドイツは日本の反面教師である (PHP新書)

  • PHP研究所 (2021年3月17日発売)
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「ベルリンの壁の崩壊とともに彗星のように現れ、時のコール首相にその才を見出され、東西ドイツの統一とともに出世階段を駆け上がり、今や9年連続で「世界で一番影響力のある女性」に選ばれ続けている稀有な政治家、2021年秋に引退予定のドイツ、メルケル首相。本書は、その生い立ちからして謎の多いメルケル首相がいったい何者なのか、批判的に謎解きをした書。

メルケル首相は、この16年の治世の間にドイツを大きく変えてしまったという。著者によれば、その「変化は3つだ。社会主義化、中国との抜き差しならない関係、そして、誤解を恐れずに言うなら、ソフトな全体主義化。つまり、反対意見が抑え込まれ、活発な討議ができない雰囲気がいつの間にか出来上がりつつある」という。

メルケル首相は、保守党の党首でありながら、権力を掌握すると、いつの間にか思いっきり左寄りの政策をとり、保守党を弱体化させてしまった(一方、中道左派SPDはCDUとの政策の違いが出せずガタガタ、新たな保守勢力AfDの台頭を許した)。しかも本人の個人的な人気は高まるばかり。どうやらメルケル首相は、東ドイツ時代から、元々自由主義・資本主義よりも人々の平等を胸とする社会主義を信奉していて、CDU(保守党)の党首に登り詰め、権力をしっかりと掌握するまではその本性を隠し、保守の振りをしていたようなのだ。

確かに、メルケル首相のこれまでの毀誉褒貶ぶり、こう考えるとよく理解できる。国民の喝采を浴びながら、脱原発や難民受け入れ、同性婚合法化など、本来産業界寄りであり、伝統的価値観を重んじるはずの保守党とは真逆の、緑の党のような過激な政策を次々断行しているのだ。しかも国民の喝采を浴びながら。アメリカで言うと、ちょうどサンダースのような立ち位置なのだという。メルケルさんは確信犯なんだな、きっと。

脱原発に舵を切って「以来メルケルは、傍から見ていてもはっきりと、国民が好む政治に専念していく。それは、言い換えれば、社会主義的な、企業を敵に回す政治だ。保守党の党首で、保守の顔をしながら、彼女は保守にはっきりと見切りをつけた。それはすなわち、ポピュリズムと言い換えることもできた」、と著者の筆は辛辣だ。個人的には、(やり過ぎの移民政策はさておき)庶民に優しい社会民主主義的政策自体はいいと思うのだが。

メルケル首相が何をしても、マスコミや国民から責められることはない。絶対的権力を手にしたメルケル首相。著者は、その力の源泉は、メルケル首相が作り上げた、彼女の言動に対して何も言うことができない "空気" なのだという。温和で理知的なメルケル首相の風貌からはうかがい知れない強かさ/抜け目なさ。いくら庶民に優しい政策をとり続けているからといって、誰もメルケル首相を批判できない雰囲気にしてしまったのは、さすがにやり過ぎだろうな。ドイツは立派なリーダーに率いられていて羨ましいなあ、と思っていたが…。

メルケル首相の後継者は誰になるのか、あるいは大どんでん返しのメルケル首相続投もあり得るのか、今年9月26日のドイツ総選挙、注目したい。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 教養
感想投稿日 : 2021年7月5日
読了日 : 2021年7月5日
本棚登録日 : 2021年7月4日

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