シャド-81 (ハヤカワ文庫 NV ネ 4-1)

  • 早川書房 (2008年9月15日発売)
3.97
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本棚登録 : 762
感想 : 82
5

これは会心の一作!
海外エンタメ小説の名作といわれるだけあって、文句なしに面白かった!

ベトナム戦争下、出動命令が下された、戦争や自身の在り方に疑問を持つ戦闘機パイロットのグラント。同じころ中国で造船所を営むフォンの元には、ハロルド・デントナ―と名乗るミステリ作家が現れ、船を一隻注文するのだが……

裏表紙にある内容紹介で、二人の目的というのはすでにネタバレされているのですが、それでもこの二人が大胆不敵な犯罪計画の準備を進めていく様子は面白い。それを支えるのは、作中のリアリティにあると思います。

グラント、デントナ―、それぞれの行動は一見荒唐無稽と思われるものの、詳細な部分や情報もしっかりと描かれており、物語に迫真性を持たせます。その迫真性と詳細さが、中盤から描かれる大胆不敵かつ、壮大なスケールの犯罪にも説得性と緊張感を与える。

ますます話は荒唐無稽になりながらも、それを絵空事と感じさせない緊迫感が続き、気づけば物語のとりこになってしまう。ホワイトハウス、国防総省、FBI、マスコミ、それぞれを翻弄し手玉に取りながら、計画が華麗に遂行されていく様子はとにかく痛快。
一方で犯人がどのように目的を達するのか、終盤まで見えてこない部分であったり、意外な展開もありド派手なエンタメとしてだけでなく、ミステリとしても十二分に面白い。

完全犯罪ものだと、天童真の『大誘拐』、岡島二人の『99%の誘拐』(どっちも誘拐ものだ)や、映画だと『オーシャンズ11』『グランド・イリュージョン』あたりが思い浮かぶ。

こうした作品って犯罪の経過だけでなく犯人側である登場人物も魅力的だと思う。この作品も犯人側の視点の面白さはもちろん(犯人と政治家のやり取りは痛快の一言!)、犯人と交渉にあたる人たちの緊迫感や、彼らのプロフェショナルな部分も、作品の魅力と言えそう。

作者のルシアン・ハイネムはかなり多彩な人だったらしく、6各語を操る新聞記者でありパイロットの資格も持っていたそう。飛行機や戦闘機に関する知識。軍やベトナム戦争に関するところのリアリティ。そして戦争や権力者に対する皮肉な視点というのは、こうした経歴も関係しているのだと思われる。
そのいずれもが、物語に有機的に結びつき一切の無駄なく、エンタメに仕上げられているのが、本当に見事という他ない。これ一作しか作品は発表していないそうで、それが惜しまれます。

解説によるとこの『シャドー81』がいきなり新潮社から文庫で出版され、それがヒットしたことで海外作品の文庫出版が一気に盛んになったそう。そんな出版社の犯罪戦略すら変えてしまう、それだけの力を持つこともうなずける、40年前以上の作品とは思えない、今でも色あせない名作でした。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: エンターテインメント
感想投稿日 : 2021年5月9日
読了日 : 2021年5月8日
本棚登録日 : 2021年5月8日

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