豊かな国と貧しい国を分けたものは何か。
簡潔な要旨と、歴史上の事例を元に二人の政治経済学者が、この問いに挑みます。
上巻で挙げられる事例は、古代帝国から中世ヨーロッパ、産業革命のイギリスなど多種多様で、歴史的な事にも結構ページが割かれているのですが、要旨自体は一貫して書かれているので、内容は理解しやすい。
著者が挙げる問いに対する回答は、まとめるととても簡単です。開かれた政治と経済、そして民主主義が豊かな国に必要とのこと。
誰にでもチャンスがあるからこそ、新たな発想が商品やサービスとして、社会に提供され、経済をより豊かにする可能性が高まる。
逆に独裁的な国家や政治、社会主義的な国家・経済だとそれが生まれず、経済が停滞するとします。それはなぜか。
社会主義ならば資産が持てず、階級も変わらない。そのためそういう状況では人は、新たな発想を生み、社会を変える可能性を感じられなくなる。
また新たなイノベーションは時に、既存の権力を揺さぶります。現代でもAIが既存の仕事を奪う、という議論が度々出てくるけれど、そのように新たな発想や発明は、現代の状況を一変させかねない。権力者側にとってそれはとても都合が悪いことです。
新たなイノベーションによる社会不安が、国家を揺るがすかもしれない。産業構造を塗りかえるかもしれない。それにより、今まで権力を持っていた人や、資産を持っていた人が敗北者になるかもしれない。
そして権力者が取る手段は、新たなイノベーションの芽を摘むこと。それが独裁であったり、政治や経済の硬直的な制度へとつながります。
だからこそ、開かれた政治、個人を代弁する選挙が必要だと著者はしています。
名誉革命により、国王の権利を制限し議会が生まれたイギリス。後にイギリスで産業革命が起こるわけですが、権力者の権利を制限し、庶民が活躍できるよう議会が制度を整えていったから、ということになるわけです。
こうやって読んでいると現代日本にもつながりそうな話。コロナ禍で日本のデジタル化に関する遅れが一気に露わになりましたが、それも硬直した制度や考え方が足を引っ張ったからのように思います。
そして、この考え方は国や政治という大きな枠組みだけでなく、会社などの組織、そして個人にも繋がるような気がします。
新しいものを恐れ、古いやり方に固執した先に待つものは何か。ますます不透明になっていく世界において、この本の考え方は、色々なところで応用が効くもののように感じます。
- 感想投稿日 : 2020年9月13日
- 読了日 : 2020年9月13日
- 本棚登録日 : 2020年9月13日
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