空耳の森 (ミステリ・フロンティア)

著者 :
  • 東京創元社 (2012年10月31日発売)
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本棚登録 : 433
感想 : 77
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 バラエティ豊かなミステリ9編を収録した短編集。

 七河作品は三作目ですがこれも巧いなあ。前半はたくらみに満ちた意表を突く結末の作品が続きます。雪山で遭難した男女を描く『冷たいホットライン』や孤島で暮らす姉弟の運命を描く『アイランド』は舞台設定自体が特殊ながら、それが見事なミステリに最後には昇華されます。

 過去作品では優しさの詰まった作品の多い七河さんでしたが、今回は苦い結末のものもいくつかありました。上記二作もそうですが、少年探偵が活躍する『さよならシンデレラ』もミステリとして巧いながら寂寥感の残る結末で、七河さんの引き出しの多さを感じます。

 そして終盤は七河さんの優しさも感じられる短編が多くなってきます。『晴れたらいいな、あるいは九時だと遅すぎる(かもしれない)』は見事なハッピーエンドに思わずニンマリ。

 八話目の『発音されない文字』は過去の七河作品と結びつきさらに物語に深い余韻が生まれます。

 そして最終話『空耳の森』ですべてが結び付く感覚とともにいろいろなものがひっくり返っていきます。そして何と言っても忘れられないのは最後の数ページの感覚でしょうか。ミステリとしてのどんでん返し以上のサプライズに思わず胸が熱くなりました。

 七河さんはデビュー作の『七つの海を照らす星』の中で星座の話を主人公たちにさせています。星座は夜空にある星と星を結びつけて星座としますが、今までの七河さんの作品もそうであったような気がします。

 というのも各短編を星と例えるなら、それが最後に結びつきもう一つの大きな物語が見えてくるのも星座のようですし、デビュー作の『七つの海を照らす星』二作目の『アルバトロスは羽ばたかない』そして三作目の『空耳の森』とそれぞれの独立した作品が一つの大きな物語をつくるのも星座、もっと言ってしまえば大三角形と言ってもいいような一つの大きな物語が出きあがっているからです。

 これから七河作品を読まれる方はぜひ『七つの海を照らす星』から読んでいただき、それぞれの星が一つの線で結びついていくのを楽しんでほしいなあ、と思いました。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ミステリー・サスペンス
感想投稿日 : 2013年9月6日
読了日 : 2013年9月6日
本棚登録日 : 2013年9月3日

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コメント 6件

まろんさんのコメント
2013/09/08

とし長さん!

七河さんの作品を星座になぞらえた、このとし長さんのレビューに
思わず「おお!」と大きな声を出してしまって、我が家の猫たちに迷惑顔をされました。
一冊の本の中のそれぞれの物語が繋がりあって星座となる、というだけではなくて
『七つの海を照らす星』に始まる三作の結びつきを星の海に浮かぶ大三角に見立てるとは。
素敵です!

「あれ?」という印象で始まった『冷たいホットライン』の冷え冷えとしたやるせなさも
SFテイストで描かれた『アイランド』の子どもたちの痛ましさも
空耳の森で眠り続けているかのような、はるのんの温かさに包まれて
ふわりとほどける最終話のすばらしさ!

こんな名作が、本が好きでたまらない人たちの集まりであるブクログで
まだたった47しかレビューを書かれていないなんて、もったいないとしか言いようがありませんよね。
でも、その47の中に、とし長さんの丁寧で愛情に満ちたレビューが加わったことに
心から感謝したいと思います。
ありがとうございます!

kwosaさんのコメント
2013/09/09

とし長さん!

本棚へのコメント、ありがとうございます。
そして『空耳の森』への素晴らしいレビュー!
重ねてありがとうございます。とお礼を言わずにはおれません。

上でまろんさんもおっしゃってますが、各短編を星に例えて星座に見立て、七河迦南の作品群を大三角形になぞらえるとは!
ちょっと感動し過ぎて、まるかぶりのコメントしか書けません(笑)
でも、そう考えると『七つの海を照らす星』『アルバトロスは羽ばたかない』『空耳の森』それぞれのイメージカラーに、光の三原色である青、赤、緑を配してしてあるのは、三つが合わさることによって白く透明な輝きを放つように......なんて思いが込められているのかも。
そんな深読みも楽しいですよね。

今作『空耳の森』は、これまで以上に七河さんの引き出しの多さを感じさせる一冊でしたね。
ああ、もっと彼(彼女?)の作品を読みたい! と調べていたら、どうもデビュー前の投稿作品が読めるようです。
光文社文庫の『新・本格推理〈06〉』『 新・本格推理〈07〉』に七河迦南名義で作品が掲載されています。
僕もいずれ読んでみようとは思っていますが、ご参考までに。

沙都さんのコメント
2013/09/11

まろんさん

身に余るコメントありがとうございます。
七河さんの作品教えていただいた通りやはりすごい作品でしたね。このクオリティの作品がこれからも発表され続けたら、嫌でもレビュー数も増えるのだろうな、と思います。

そうなったら、「七河さんの魅力を自分はもっと早く気づいていたよ」と悦に入れるとともに、それが受け入れたことに喜びと少しの寂しさを心地よく感じられる、そんな日がそのうちやってくるんじゃないかと勝手に想像しています(笑)

次はどんな作品を発表されるのか。とても楽しみですね。

沙都さんのコメント
2013/09/11

kwosaさん

またまたコメントいただきありがとうございます。
光の三原色という考えは思い浮かばなかったです。そう考えるとますます今までの三作品のつながりのロマンが広がりますね。

七河さんってデビュー前から活躍されていたのですね。でもデビューからの作品の完成度をみるとそれも納得です。

光文社の『新・本格推理』ですか……。正直初めて聞きました。僕の近所の書店ではあまりおいてなそうな雰囲気がぷんぷんとします(苦笑)今度大型書店に行くときはちょっと気を付けてみようと思います。情報ありがとうございます!

kwosaさんのコメント
2013/09/13

とし長さん

『新・本格推理』について説明が足りませんでしたが残念ながら現在絶版です。
ミステリ作家の二階堂黎人さんを編集長に、一般から公募した優秀なミステリを集めた文庫形体の本で、何冊か出ています。
もともとは故・鮎川哲也さんの『本格推理』の流れを汲むようで、こちらも結構な册数が出ています。

古本屋を巡ってもピンポイントで欲しい本が見つかることは少ないので、僕はAmazonををよく利用します。
中古価格1円+送料250円なんて本、たくさんありますよ。
意外に図書館にも在庫があることも多いので、オンラインを活用して検索&予約したりもします。

でも読みたい本ばかり増えて、なかなか追いつかないのが実状。
ご利用は計画的に、ですね。

沙都さんのコメント
2013/09/13

kwosaさん

追加の情報ありがとうございます。

自分でもコメント拝見後wikipediaやamazonで調べてみたのですが、こんな企画をやっていたんですね。『新・本格推理』で作品を掲載後デビューされた方もたくさんいるみたいで、驚きました。

私事ですが、積読本がたくさんある状態でオンライン書店はちょっと躊躇があるんですよね……。
積読がたまってるのに新刊の文庫も買い、図書館で本も借り、近所のブックオフがしょっちゅうやっている半額セールに毎回行ってしまうので本がたまる一方……。

この上オンラインまで手を出したらどうなるんだ、という感じなのです(苦笑)

まさに“ご利用は計画的に”ということですね。積読本がどうにかなったら読んでみたいですね。

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