1910、1912、1914年に書かれた3編を収めた中編小説集。
改めて読んでみると、ブラックウッドは文章が上手くないと感じた。翻訳のせいもあるかもしれないが、比喩が下手だったり、文章がくどかったりもする。このために幾分読みにくく、物語に今ひとつ没入しにくい。物語内容はホラー/怪奇小説の古典としてそれなりに良いものと思う。
最後の「アーニィ卿の再生」(1914)を読んで思いついたのは、ここで主人公らを魅了する「山の民」の異教的・原始的な祭典は、1913年に初演されたストラヴィンスキー/ディアギレフのバレエ「春の祭典」のイメージとかなり似通っている。このバレエを視聴してパリの観客が嫌悪し、憤慨したその<原始>イメージは、何も「春の祭典」だけが持つ画期的なものではなかったろう。それはヨーロッパ人が既に知っている文化的<記号>を表明していただけではないのか。
この<原始>は1936年にアントナン・アルトーがタウラマラ族と出会って喚起されたイメージとも重なるし、もっと後にパゾリーニ監督が映画で表出したものとも通底している。ただしそれらは反=近代性の記号であるために、常にマイナーな文化として、一部のカルト的な支持を得ただけであったのではないか。
ホラーはもともとカルト的なジャンルなので、このような負の文化記号はむしろ一般的であり、オカルティックな祭礼の主題は大量のホラー映画で繰り返され続けている。ブラックウッドが呈示したものは、それらの典型の一つと言えるかもしれない。
読書状況:読み終わった
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カテゴリ:
文学
- 感想投稿日 : 2023年5月11日
- 読了日 : 2023年5月10日
- 本棚登録日 : 2023年5月10日
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