パリの周恩来: 中国革命家の西欧体験 (中公叢書)

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  • 中央公論新社 (1992年11月1日発売)
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「周恩来自身は、表向きからいえば、西洋文明という異質の文化からのカルチャー・ショックそのものよりも、一見はなやかな文化のなかに突き刺さるように顕在化している、社会不安に心をうたれた」(50頁)

「我、はじめて欧州に旅し、わが目に映る第一印象としての感じは、大戦後のヨーロッパ社会がうけている巨大な影響である。そして、顕著なことは、不安定な状況である。影響とは一体なにか。すなわち、生産力の不足、経済界の恐慌、生活の困窮である」(51頁)

「日本留学も経験した知識人の周が、清貧に甘んじ、金儲けの源を、個人的な理由に還元せず、社会構造と政治のありかたに求めたからにほかならない。
 どうして彼にそれができたのか。どうして彼は、そうした深い自覚をもてるようになったのか。それは、単に彼の貧しさのせいだけではなかったはずである。皮肉なことに、そのひとつの理由は、彼が、目から鼻に抜けるような秀才ではなかったことによると言ってよい。才あるものは、とかく自らの才に溺れ、歴史の流れに乗り切れない。周は、そういった類いの秀才ではなかった。」(18頁)

1922年から24年、周恩来はフランスに留学している。
この本は、そのフランス滞在における周恩来の行動と思想形成を通して、当時の中国人が抱いていた欧州社会への憧憬や感情、そして混沌としている中国社会を打開しようとする革命運動の歴史的流れをも描いたもの。サブタイトルに「中国革命家」という言葉があるとおり、フランス滞在での体験が、後の彼の革命家としての生き方にどういう影響を与えたのか、という点も描かれている。単に「周恩来の人となり」だけを紹介して終わり、という伝記物とは一味違う。

また私がこの本を気に入ったのは、全般的には周恩来について好意的な見方はされているが、それでもただ美談やカリスマ性を煽らせるような逸話などを単発的にドンドン入れ込んで、そのあとは何も解説しない、すごいですねぇーすばらしいですねぇーという感嘆で終わらせるというような稚拙な人物伝とは違うことだ。
周恩来は素晴らしい人物であるには違いないが、何でもかんでも褒めちぎって、ヨイショだけをした人物評類いの本は、読んでいても、面白くもないし、ましてや本当の理解につながらない。
この本では、そういった逸話・美談についても入れ込みながらも、ちゃんと正面から捉えて、「では、実際その話はありえるのか」「その逸話をどう読み解くのか」「その逸話が果たす役割(影響)を考えるとどういうものか」など、一種の「謎解き」が盛り込まれている。
そのため、結果、周恩来のいわば「偉大さ」を象徴させてきたような逸話が、読み解くうちに実際言われているほどのことではなく、案外一般的なものなんだーという事実が淡白に出されてしまった、、、という感じもあり、味気のないものだ・・・という印象にもなるが、なんでもかんでもドラマチックなことばかりではない、ちゃんとした現実的な客観事実を整理していく著者の手法は、非常に参考になると思う。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2007年11月22日
読了日 : 2015年1月27日
本棚登録日 : 2007年11月22日

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