差別はたいてい悪意のない人がする

  • 大月書店 (2021年8月26日発売)
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職場で電話を取った同僚が、ニヤニヤと笑いながら上司へこう言った。
「〇〇課のた、た、田中さんからお電話です」
上司はニヤニヤしながら「あ〜、あの田中さんね」と言って電話を受け取って普通に話し出した。
私はその会話を信じられない気持ちで聞いていた。この2人がなぜニヤニヤしていたのかというと、田中さんが吃音症だからである。
電話口で田中さんが「た、た、田中です」と名乗ったのを聞いた同僚が、その口調を真似して電話を取り次いだのだ。はっきり言って、私にとってはまったく面白くなかったし、そんな笑えない冗談でニヤニヤしている2人の神経を疑った。

このとき私が困惑したのは、この2人が普段からボランティアに熱心に取り組んでいる善良な人たちだからである。善良な人たちがなぜこんな発言をしてしまうのか…。この本にその答えがあった。

同僚の冗談が私にとっておもしろくなかったのは、私のたいせつな人の中に吃音症の人がいるからだ。もしそうでなければ、私も一緒に笑っていたのだろうか?恐ろしい話である。
例えば、セクシャルマイノリティーに対して。これまでにLGBTの当事者会っても、「男性が好きか女性が好きかなんて私にとってはどっちでもいいし、興味がない」と思っていた。差別している意識は全くなかったが、このような「なぜあえてカミングアウトするのですか」という態度は、「あなたたちは私的領域に残るべきであり、公共の場では見えない存在でいてほしい」と要求していることに等しいと筆者はいう。

セクシャルマイノリティーのフェスティバル「プライドパレード」をめぐって、パレードに反対する人々による暴動を防ぐため、パレードの開催を禁じる国もあるそうだ。「被害者があえて公共空間に出てくるから犯罪が発生するのだ」というのは、マイノリティに責任を転嫁する典型的な言い方で、マイノリティを公共空間により登場しにくくする。

これを読んでいて思い出したことがある。「宗教上の理由で女性の外出を制限したり、肌の露出を制限したりするのは、女性が襲われる被害を防ぐためだ」とネットニュースで発言している人がいて、「襲われる側を閉じ込めておいて、なんで襲う側の外出を制限しないの?」と強烈な違和感を抱いたのだ。本を読むうちに、自分もこの発言者と同じような思考をしていたことに気づき、ハッとさせられた。

白人と黒人のトイレを区別していた過去は、現代から見ればバカらしく滑稽にさえ思えるが、男性と女性のトイレを区別している現代は、未来から見れば滑稽に映るのだろうか…。

LGBTの他にも、お店での子連れお断り・外国人お断り・車いすお断り等、集団の一部がマナーを守らなかったり、トラブルを起こしたがために、その集団の全員を締め出す「連帯責任」の問題についても書かれている。
読みやすい文章で、気づきの多い一冊です。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2024年3月20日
読了日 : 2023年5月20日
本棚登録日 : 2024年2月2日

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