古書市で偶然見つけた本。作者名や本のタイトルについての予備知識はなかった。
だから読むにあたってまずしたのは、私が海外小説を読むときにいつもする「地図帳を手元に置いて広げる」こと。
―なになに、アイルランドって島全体でみると北海道と同じくらいの大きさやん。そういえばアイルランド作家の作品って読んだことあったっけ?J.ジョイスのダブリナーズは読んだことあるけど。大江健三郎の小説によく出てくるイェーツの詩も少し読んだことはあるな…etc.
その程度の知識で読みはじめたが、アイルランドに関するそういった事前の知識なんか全く必要なかった。と言うよりも、アイルランドっぽさをそれほど感じなかった。
そりゃ出てくるのはビールじゃなくてスタウト(黒ビール)だし、特に自然現象の描写に、科学的側面に織り交ぜるような形で精霊的と言っていいような側面が見える瞬間があるのがアイルランド的とも言えるかもしれないけど。
でもアイルランドっぽさを感じなかった一番の原因は、翻訳者・大澤正佳さんの訳文にあると思う。日本人作家が日本語で書いたのかと見間違えるくらいのナチュラルな訳文。いわゆる直訳文っぽい日本語がほとんどない。だからつっかかる感じを受けずに読み通せた。
次に内容に踏み込むと、簡潔に説明するというのは極めて難しい。
内容に関しては他のレビューに断片的に書かれてはいるが、私からは「読んでみたらわかる」としか言いようがない。
でも少し踏み込んで言うとすると、「風には色があって、ある瞬間にだけ色が見えるはず」というような、自分には実は他人が見えていないものが一瞬見えているのでは?と少しでも考えたことがある人にはお薦めできる。
(一方で、逆に「実際にそんなものが物理的に考えて見えるはずがない」と考えるタイプの人にはお薦めできない。現実はそのとおりなので否定するつもりはないけど、この本は合わない。)
例えると、宮澤賢治の世界観が好きな人はこの本も好きになれるのかな?そう考えると、アイルランド人と日本人とは、文学的感性が意外と近いのかもしれない。
あるいは、中期ビートルズでのジョンレノンの詞(ex. Tomorrow never knows)のような、意味の無いようでいて多義的な不思議な感覚にも通じるだろうか。
私はどちらも好き。だからこの本も楽しめた。
- 感想投稿日 : 2020年6月14日
- 読了日 : 2020年6月14日
- 本棚登録日 : 2020年6月14日
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