沙耶の唄 (星海社FICTIONS)

  • 星海社 (2018年12月16日発売)
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本棚登録 : 145
感想 : 9
5

原作は20年前に書かれた、異類婚姻譚です
古典に値する恋愛モノ的位置づけで、タイトルは聞いたことがありますが、詳しい内容は知りませんでした
私が今まで見てきた美少女ヒロインの中で、1番戦闘力が高かったです
こんなに強いヒロインは初めて見ました
道理で格闘ゲームにも出てくるワケでした

昔にしてはよく書けてる程度だろうなと高を括って読み始めて、すごい作品だなと驚きました

交通事故遺児の大学生である主人公の下に現れる美少女と、ひとつ屋根の下で生活していきます
事故の後遺症でゴアな幻覚に支配されてしまった主人公と、それを慰撫するヒロインのやり取りは、幼児退行的であり本能的でした
2人きりの世界で家族になろうと頑張っている様子が伝わってきました

正体不明のヒロイン沙耶の詳細が明らかになるとともに、主人公と沙耶の世界が完成されていってしまいスケールが萎んでいくような印象を受けました
そこから真相を知る丹保女医が、話の風呂敷を広げていくので読み応えがありました
対象する惑星の知的生命体との交流を手掛かりに、繁殖活動を通して侵略する宇宙生命体であることが明かされると、虚淵玄ワールドに暗転するような感動でした
あまりにも端的に沙耶を説明したせいか、沙耶の思慕と興奮が、機械的な繁殖に解釈てぎるようになりました
幼さではなく、模倣し損ねたプログラムというか
例えるなら、美少女のガワを被った、虫の繁殖活動にしか見えなくなった感じです

事故がなければ、主人公と瑶は睦まじく結ばれていたことでしょう
だからこそ沙耶は妬んでいたと思います
瑶と沙耶を並べてしまえば、本質にある女性性は似ています
主人公に依存している乙女です
瑶が先に選ばれていれば、沙耶の唄は完成しなかったでしょう
瑶に向けて、沙耶に捧げられていた熱量の愛が注がれていたでしょうから
だからこそ耕司のがラストで沙耶を異物としか見ていなかったんだと思いました

主人公の交友関係を蹂躙する展開は、後半のガンアクションに重力持たせています
尊厳なき死を遂げていく学友の姿が、主人公と耕司の決闘に説得力を持たせます
納得のある憎悪が作り上げられていくので、アクションシーンに体温が宿っていく感じがしました

種族の隔たりを超えて家族になろうとする異類婚姻譚の美しさは確かにあり、後半を読み進めていると、気づけば沙耶が肉塊である消退を忘れていてしまいました
虚淵玄の書きたいものがちゃんと伝わってくるというか、書きたいものを掴んでいる感じがしました

世界を巻き込む大恋愛でしたが、2人だけの関係性はとても美しいものだと思いました
ターゲット層になっていそうな結婚適齢期の成人男性からすれば、沙耶のようなニコイチなパートナーは夢物語に映りそうな気がしました
沙耶に癒やされるほどの孤独を理解できるからです
そして正体が肉塊であったとしても、何かを愛していたいんだと思いました

核にあるのはピュアな恋愛小説でした

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2024年4月28日
読了日 : 2024年4月28日
本棚登録日 : 2024年4月28日

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