デファクト・スタンダードの経営戦略: 規格競争でどう利益を上げるか (中公新書 1493)

著者 :
  • 中央公論新社 (1999年9月1日発売)
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もとの本が絶版となっており、古本で購入した。集められた事例は時代を感じさせるものの、内容は現代でも十分通用する新しさを備えている。単に規格競争を調査論述するだけにとどまらず、副題「規格競争でどう利益を上げるか」にもあるように、具体的な処方箋を示しており、非常に参考になる。特に何をオープンにして何をクローズドにするかを考えてからビジネスを行うというのは、今の時代でも主流の考え方だと思う。
以下、印象に残った箇所を抜き書き、まとめてみる。
「規格の知的財産権を強く主張し、クローズドにすればするほど、その規格に賛同する企業やユーザーは減り、デファクトはとりにくくなる。逆に知的財産権を放棄したり緩くしたりしてオープン・ポリシーをとれば、デファクト・スタンダードは獲得しやすくなるが、開発者利益は得にくくなる。このようなトレードオフの中で、企業はどのようにすればデファクトをとり、かつ利益を上げることができるのだろうか(P106)」
ここで、著者は、オープンとクローズドとの組み合わせによって利益を得るべく、現在の利益か将来の利益か、本体と補完製品のどちらで利益を上げるか、という2つの軸を組み合わせて、利益の源泉となる4つのセルを提示し、各セルにおける戦略を詳述している。

     |現在|将来|
本体   |A |C |
補完部品 |B |D |

A.今、本体で利益を上げる
 →機能向上と低価格化を同時に業界で一番の速さで進めていき他社を振り落とす
   ex. IntelのMPU、MicrosoftのWindows等
B.今、補完部品で利益を上げる
 →本体ではなくデファクト競争の陰に隠れて見えにくい補完製品で利益を上げる
   ex. 任天堂のファミコンのソフト、ビデオカメラの専用充電池等
C.将来、本体で利益を上げる
 →時間の経過とともに本体が物理的・機能的に陳腐化してきたときに再調整や代替により利益を上げる
   ex. 機械式時計のメンテナンス、初期バージョンを無料配布してバージョンアップ時に利益回収等
D.将来、補完部品で利益を上げる
 →本体購入後、時間が経過した頃に、補完製品で利益を上げる
   ex. ジレットの替刃(他社の替刃と互換性がない)、ゼロックスの複写機リース、ワープロのインクリボン等

これらをまとめると以下の3つになる。
1.オープンとクローズドの多重構造
 規格本体あるいはプラットフォームとなるAのセルをオープンにして普及を優先させ、B~Dのいずれかのセルをクローズドにしてここで利益を確保するというビジネスの組み合わせ。規格策定段階から、戦略を固めておく必要がある。
2.「見えるビジネス」(本体/完成品)「見えないビジネス」(見えにくい部品/サービス/メンテ)の多重構造
 本体よりも補完製品の方が産業界で大きな位置を占め、利益率も高いことが多い。見える部分は付加価値追求、見えない部分は規模の経済性、オペレーション効率を追求するというメリハリが必要。
3.通行料ビジネス
 技術革新のスピードが速いため、売り切り商品による利益だけではなく、わずかな金額を長期間バラバラなところから収入が入ってくる仕組みづくりが求められる。インターネットを利用して取引の度に少額の課金をするなど。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 本・雑誌
感想投稿日 : 2018年11月19日
読了日 : 2011年5月2日
本棚登録日 : 2011年5月2日

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