星の時

  • 河出書房新社 (2021年3月26日発売)
3.69
  • (12)
  • (22)
  • (14)
  • (3)
  • (3)
本棚登録 : 400
感想 : 30
5

こんなにも魔法にかけられた物語に出会ったことはあっただろうか。私的、No.1作品。

奇妙な語りから始まるこの本には、章立てがない。少しでも流し読みをするとよく分からなくなる。だから1文1文を丁寧に。そう、丁寧に追っていたはずなのに、気づいたら、摩訶不思議な世界から、1人の女性の日常にのめり込んでいた。読み終わった瞬間、ふと魔法が解けて、我に返る。漫画に出てきそうなほどの放心状態になっていた。

この物語の主題は、「踏み潰された無垢」、「名もなき悲惨」だと著者のリスペストールは言うが、まさにそうで、究極の貧しさや醜さやその中にある刹那的な美しさに心を奪われていった。貧しく、卑下されていて、明らかに「不幸」な人生を歩んでいる当の本人は、そのことに気づいてなくて、マリリンになることを夢見ている。

一見、憐れに見えるのに、彼女を憐れむどころかむしろ、その切なさと無垢さを羨ましく思う。残念で不運で可哀想でどうしようもない。そう誰もが思うほどの人生なのに、彼女の生は息を呑むほど美しい。
少なくとも、私にはそうだった。

読み終えた。心も頭も全てが奪われていた。冒頭を読み返す。全てが繋がった。これは、紛れもなく「星の時」の物語である。

ふと心が貧しくなりそうな時に、この本をバイブルとして手に取りながら、生きていきたい。彼女は、貧しくてガリガリで不細工なマカベーアは、とっておきのスターなのだから。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2023年8月27日
読了日 : 2023年8月27日
本棚登録日 : 2023年8月27日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする