日経サイエンス 2015年 05 月号 [雑誌]

  • 日本経済新聞出版社 (2015年3月25日発売)
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特集は「超ハビタブル惑星」。少々怪しげな言葉だが、要するに「地球以上に生物が生存しやすい惑星」を指す。地球は奇跡的に生命体が存在するのに適した環境だという見方もあるが、本当にそうだろうか? ひょっとして宇宙には、生命体にとってもっと「適した」惑星もあるのではないだろうか?
生命にとって居心地のよい環境とは何か。例えば含水量、例えば気温、例えば炭素循環。この記事では、種々の要因を考慮に入れ、シミュレーションしながら、どのような惑星が地球を超えるよりよい「住処」=スーパーアースとなる可能性があるかを探っていく。地球と「似た」惑星を探すのではなく、想定される諸条件を満たす惑星を探している点がポイントであり、興味深い。惑星だけでなく、(地球に太陽に当たる)恒星の条件も考慮される。太陽よりも小型の恒星は、より長い寿命を持つ。こうした恒星は、放出するエネルギーは幾分少ないが、安定して長期間存在する。こうした恒星系では、「ハビタブル」であるためには、惑星の大きさが地球の2倍程度であることが望ましい。惑星内部が冷えにくく、プレート(大陸)の移動が起きて、CO2循環が維持されるのに適したサイズであるからだ。
地球型・太陽型に固執しないことで、ぐんと可能性が広がるのがおもしろい。

「海洋考古学の新時代」。ハイテク時代、海に眠る秘密を探る海洋考古学もまたその恩恵を受ける。GPSのおかげで、かつてとは比べものにならないほどの精度で、正確な位置情報を得ることが可能になった。内部を大気圧に保つことが可能な潜水服の開発により、海底での長時間の調査や、終了後の迅速な浮上が可能になっている。音響機器や記録装置の発展もめざましい。海底での調査・研究に対する障害が徐々に取り除かれつつある。

医学の話題から、「がんをたたくウイルス療法」。1900年代初頭、子宮頸癌と診断された1人の女性がいた。彼女は不幸なことに、その上、犬に噛まれてしまった。驚くべきことに、狂犬病ワクチン投与後、女性の腫瘍塊は消え、その後、再発しないまま8年間、彼女は生き延びた。
がんの治療にウイルスが効くかもしれないという概念の元に、さまざまな試みがなされている。毒を以て毒を制するアプローチである。うまくいけば、癌細胞だけにウイルスを感染させ、さらに患者自身の免疫系と協調して、がんを叩くことが可能である。臨床試験も行われ、大きな可能性はあるが、特に免疫系を調節する療法と組み合わせる場合には、注意深い適用が必要である。

「体のあちこちで働く末梢時計」。時間を感じる体内時計は、実は1つではない。脳には親時計といわれる、明暗情報などによって概日リズムを感じる時計があるが、肝臓や心臓、脂肪などにも時計は存在する。全体の調和がとれていればよいが、ズレが生じると、例えば肥満や糖尿病、精神疾患などを引き起こしかねない。マウスの実験からは、慢性的な時差ボケのような状態が続くと、学習や記憶が損なわれることも観察されているという。

食物の話題から、「温暖化が脅かすワインの味」。なかなか興味深い記事である。ワインの風味は、微量元素の量など、繊細で微妙な要因によって生み出される。温暖化により気温が上昇すると、ブドウが熟すのが早くなりすぎて、酸味と糖分の微妙なバランスが達成できなくなったり、ほどよい色になる前に果実がしぼんでしまったりする。産地が大きな意味を持つワインの場合、気候が変わっても即座に別の土地での栽培に切り替えることは難しい。また土地が変わるとわずかな環境の差で、風味が変化する可能性もある。

その他、カンブリア紀の眼の発達と結びつけたデジタル社会の過剰な可視化への対応を考える「透明化が社会に強いる進化」、習慣ができる神経科学的メカニズムにせまる「習慣を作る脳回路」、フレッシュマンにむけた読書ガイドも読み応えがある。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 科学
感想投稿日 : 2015年4月7日
読了日 : 2015年4月7日
本棚登録日 : 2015年4月7日

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