クトゥル- (3) (暗黒神話大系シリーズ)

  • 青心社 (1989年1月1日発売)
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感想 : 6
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 3集はブロック、スミス、ダーレスの作品の他に、ラヴクラフトの創作意欲に影響を与えた作家であるビアスとチェンバースの著作の中から、ハスターの設定に影響を与えた作品を加えた9篇を収録。
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『カルコサの住民』(ビアース/1893)
 熱病に冒され魘されていたわたしは、気がつくと荒涼とした平地の上にいた。ここは一体どこなのか――。(ハリ、アルデバラン、ヒアデス星団など、後に神話体系に組み込まれる固有名詞が登場する。)

『黄の印』(チェンバース/1895)
 説明不可能なことが、なんとこの世にはたくさんあることか。それは、あのなま白い蛆虫のような夜警を見かけたことがきっかけだった――。(黄衣の王に黄の印と、ハスターを彩る重要なアイテムが登場するのだが、これも後から遡って神話体系に組み込まれたという経緯。実は連作集『黄衣の王』の中の一編で、一応これだけでも完結してはいるが不完全燃焼な感がある。どうして『永劫の探求』のように他の作品も入れなかったのか。)

『彼方からのもの』(スミス/1932)
 友人で彫刻家のキュプリアンの、制作途中の新作を見た時、わたしは思わず悲鳴をあげ、よろめきながらあとずさった。なぜなら、それはここに来る前に立ち寄った書店の片隅にいた、食屍鬼のような怪物だったからだ――。(『ピックマンのモデル』の彫刻家バージョンといった趣。)

『邪神の足音』(スコラー&ダーレス/1930)
 作家のラーキンズは幽霊が出ると噂の屋敷を不動産屋から借り受ける。現実主義者である彼だったが不可思議な物音に悩まされたため、先住者の調査を始めたのだが――。(現実的な主人公が超現実的な存在に翻弄され襲われるというオーソドックスなもの。)

『暗黒のファラオの神殿』(ブロック/1937)
 公の歴史には登場しないファラオの神殿を探し求める考古学者のカータレット。突然彼を訪ねたアラブ人はその在り処を彼に告げる。疑いながらも功名心と探究心からアラブ人に導かれたカータレットが目にしたものとは――。(ブロックが生み出した魔導書『妖蛆の秘密』とその著者プリンの設定を、ナイアルラトホテップとの関係も交えて掘り下げている。)

『サンドウィン館の怪』(ダーレス/1940)
 従弟のエルドンに電話で呼び出されたわたしは、叔父――彼の父のことで相談を受ける。気さくだった叔父が、旅行から戻ってから始終何かに怯えるようになったというのだ。それは、家中に漂う湿気に関係があるようで――。(インスマス物語群の一。邪神に仕える者たちと交わった人間の葛藤の描写が特徴的で、信仰よりも肉親の情が勝る展開はダーレス的とも言える。)

『妖術師の帰還』(スミス/1931)
 アラビア語の語学能力を買い、わたしを雇ったのはいかにも魔術師然とした神秘学者だった。容姿に反して彼は気さくで紳士的なのだが、家の物音に過敏に反応する傾向がある。鼠が多いと彼は言うが、その夜にわたしは、小さいがあきらかに鼠ではない何かを目撃し――。(ネクロノミコンの記述の一端があるので、興味がある人には一読の価値がある。)

『丘の夜鷹』(ダーレス/1948)
 従弟の失踪について調べるため、従弟の家に移り住んだわたし。その夜に私を襲ったのは異常な数の夜鷹の鳴き声で――。(ヨグ=ソトース物語群の一。うっかり魔導書の呪文を音読してしまったためにあちらに取り込まれてしまうという話だが、不気味に描写される夜鷹の存在が怪奇な雰囲気を盛り上げている。)

『銀の鍵の門を越えて』(ホフマン・プライス&ラヴクラフト/1932)
 失踪した神秘家の遺産の処分を巡って集まった4人の男たち。その中の一人が、失踪後の彼の足取りについて語りだすのだが――。(ラヴクラフトの作品である『銀の鍵』の愛読者であったプライスが後日譚を創作、受け取ったその原稿をラヴクラフトが改作(脚色などして新しい作品にすること)したのが本作品である。クトゥルフ神話とは別にラヴクラフトが考案したもう一つの世界である「ドリーム・サイクル」の、終着点の一つとも言える内容で、それゆえに『銀の鍵』が一緒に収録されていないことに不満が残る。)

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 本#933:クトゥルフ神話
感想投稿日 : 2021年4月4日
読了日 : 2021年4月4日
本棚登録日 : 2021年4月4日

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