シンメトリー:対称性がつむぐ不思議で美しい物語 (アルケミスト双書)

  • 創元社 (2010年10月20日発売)
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感想 : 10
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アルケミスト双書、本書はシンメトリー、対称性について。とはいえ、どの巻も主題が緩やかにつながっている。
たとえば樹木、フラクタル、ランダム性、電子軌道、音楽。

もっともシンプルな対称性といえば、平行移動、点対称移動、線対称移動によって作られるパターンだろう。
本書で紹介されているのは、相似パターン、放射対称(たんぽぽの綿毛や雪の結晶など)、球対称、三次元のシンメトリー、空間充填立体、渦巻きと螺旋、フィボナッチ数、分岐パターンなどなど多岐にわたる。

ヒトがどうしてシンメトリーやパターンが好きかといえば、やはりそれが組織化の原理だからだろうというのが本書の仮説。DNAや細胞の複製ひとつ取ってみてもそうだ。

とくに動く生き物のシンメトリーには興味が湧く。動物は「両側性」だけでなく「背腹性」もある。移動特性によって形に影響を受ける。

(本書には残念ながらなかったが晩年のチューリングが取り組んでいたという形態発生の原理の研究について詳しく知りたいのだが目下、足踏み中)

もうひとつ興味深いのが、生き物の対称性のなかの非対称性(アシンメトリー)。本書に紹介されている例でいえば、肺や腎臓は左右対称だが心臓や胃は非対称。カニのハサミが片方だけでかいとか。

もちろん文化のなかにも対称性は溢れていて、装飾や織物や紋章のパターン、庭園、ピラミッド、モスクなど枚挙にいとまがない。

対称性は何より安定の象徴であり、つまり権力の象徴でもある。さらには、非対称性である「時間」に対する抵抗なのかもしれない。避けては通れない死に対する。

不可逆的な時間を円環にして閉じたことじたいにアシンメトリーへの恐れが働いている。永遠性というフィクションの幕開け。

とはいえ、思えば死後の天国と地獄という発想もまた対称性だ。どこまでも対称性がついてくる。とすると、人間の「真似る」「似せる」という行為もまた対称性で、さらには「想像する」(ようするにこれは「似てきてしまう」ということだろう)こともまた対称性と深く関わっているはずだ。

うーむ、面白い。逆に文化史において「非対称性」を強調するケースはそう多くあるのだろうか。そうした事例を集めた本があれば読みたい。なければ地道に集めて私家版でも作ろうかな。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 科学
感想投稿日 : 2022年7月25日
読了日 : 2022年7月25日
本棚登録日 : 2022年7月25日

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