化学物質はなぜ嫌われるのか ‾「化学物質」のニュースを読み解く (知りたい!サイエンス 33)

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  • 技術評論社 (2008年6月25日発売)
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感想 : 27
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大学の図書館で筆者の運営する「有機化学美術館」の記事を読んだ所とても面白かったので、筆者に興味を抱いてその場で借りたのが本書。非常に読みやすい文章で、論点や主張も鋭いのでどんどん読み進めていたら図書館閉館前に読み終えてしまった。

有機化学は自分がこれから専攻する予定の分野ではあるものの、世間的には悪い印象が強い分野だったので正直引け目も感じていた。その点で本書は私の心の支えにもなった。

自分が本書の内容の中で最も肝に銘じるべきと思ったことは、引用文にも挙げた「絶対安全を保証することは不可能である」という点である。この論理的な原理により、有機化学を扱う人間は誰でも「危険物を利用して利益を上げる人間」として槍玉に挙げられるリスクを背負わなければならない。これは非常に重大で、かつ解決しようのない問題である。専門外の人間が各化合物の安全性をいちいちチェックすることはできないから、一度批判を受けて悪い印象が世間に根付いた化合物は、例えその批判が荒唐無稽であったにせよ、世間から悪い印象を払拭することはほぼ不可能である。多くの科学者が金と時間と労力をかけた努力の結晶が、自称専門家の恣意的批判により無駄になった例もあるだろう。化学で食べていくということは、常にそうしたリスクに曝されるということでもあるのかもしれない。

もっとも、自分が本当に有機化学で食べていける職に就けるのかについては、まったく別の問題ではあるが。とにかく、有機化学をライフスタイルの中心にして生きるのも悪くないなと思えたのは大きな収穫だった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 有機化学
感想投稿日 : 2013年3月16日
読了日 : 2013年3月16日
本棚登録日 : 2013年3月16日

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