核兵器入門 (星海社新書)

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  • 星海社 (2023年3月22日発売)
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「持たず、作らず、持ち込ませず」、この非核三原則に「語らせず」「考えさせず」などを付け加えて、評論家たちが揶揄する。タブー視するのは良いが、専門知を否定すれば、この重要課題が印象論だけで愚民化させられてしまう。

「都心に核爆弾が落とされたら」
多田将氏は素晴らしい。考えるべき、タブーからスタートする。専門的だが、分かりやすい。

核兵器によるダメージは、火球、熱線、爆風、放射線、放射化物に分類される。北朝鮮の地下核実験ではマグニチュード6.1の地震を引き起こした事から、核出力が160キロトンと推定される。核出力はTNT火薬換算で何トンの爆発力に相当するかで示される。ちなみに、広島は15キロトン、長崎は21キロトン。160キロトンの場合、火球は半径580メートル。放射線は半径2.1キロメートル。熱線は半径5.8キロメートル。この範囲が致死線。

核融合を起こすには、まず核分裂の反応が必要。従い、核融合兵器(水爆)は必ず核分裂兵器を搭載している。プライマリーの核分裂で超高温・超高圧状態を作り出し、セカンダリーの核融合兵器を起爆させる。160キロトンの核出力は、核融合兵器にしか不可能なレベル。ああ、北朝鮮は水爆か。このように、理解が進む。

避難するには地下がベスト。ウクライナのキーウにあるアルセナーリナ駅が世界一深い地下鉄駅。日本では、TX秋葉原駅。集えし秋葉原へ。

ドイツも日本も核兵器の原理はわかっていて、開発に取り組んでいたが、最も困難なウラン濃縮やプルトニウム製造を実現できなかった。アメリカはプルトニウム製造を実現し、ハンフォードサイトと言う本格的な生産炉によりプルトニウム239の6割が生産された。プルトニウム239とウラン235と言う核燃料が用意できれば、爆弾の構造は比較的簡単。しかし1つだけ簡単ではない構造があり、それが爆縮レンズ。これを設計したのがジョンフォンノイマン。

自然界に存在する大部分はウラン238。天然ウランの中にウラン235は0.7%しか存在しない。そのためブラン235を物理的な方法で取り出すウラン濃縮が必要となる。濃縮ウランを取り出す過程で、ウラン235の割合が低くなった部分を劣化ウランと言う。これを使った砲弾が劣化ウラン弾。爆発時に細かい粉末になり、これを人間が吸い込むと内部被曝を起こす。そのため倫理的な問題がある。しかも放射性物質を撒き散らすことになるので、国内で戦うことが前提の日本やドイツでは用いられない。日本やドイツは、タングステン合金弾を使っている。

ちなみに、原子力発電所の濃縮ウランは、ウラン235の割合が数%程度。核兵器に用いる濃度は100%だが、それだと非常にコストが高い。しかも兵器転用できないようにと言う理由もあり、原子力発電所の濃縮割合は低い。ちなみに、艦艇用原子炉では本体の寿命の間に燃料交換しなくて済むように100%に近い高濃縮の核燃料を使う場合が多い。

核爆弾ではないが、放射性物質を撒き散らすためだけに作られた「ダーティボム」がある。殺傷能力は高くないものの、放射性物質が流れた地域や国を混乱させることができる。

電磁パルスは、電子回路に瞬間的に大きな誘導器電力(サージ電圧)を発生させる。電子機器アイラナ耐えられる電圧が決まっているので、これを超えた電圧がかかると壊されてしまう。パソコンなら120ボルト程度が限界。核兵器を大気圏外で爆発させて電池パルスを発生させるという攻撃の仕方もある。

領域を巡る自由競争社会の到達点は、最強の兵器という皮肉。最高の頭脳、最強の兵器、最大の支配範囲、最大資本を頂点としてユートピアが構築される。その頂上を目指す自由競争下の刹那的な均衡状態が平和ならば。インプリンティングされた競争本能は、既に邪魔である。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
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感想投稿日 : 2024年3月23日
読了日 : 2024年3月23日
本棚登録日 : 2024年3月19日

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