両利きの経営(増補改訂版)ー「二兎を追う」戦略が未来を切り拓く

  • 東洋経済新報社 (2022年6月24日発売)
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両利き。つまり既存事業の深化と新規事業の探索。これらの両軸で事業拡大させていく。既存事業の成功体験が新規に悪作用したり、そのリソース配分やリーダーシップの在り方は単純ではない。時勢のタイミングや商材、競合にもよる。そうした難しさを事例を挙げながら解説。教科書のような本。

破壊的イノベーション、破壊的技術は、新しい顧客層の心をつかみ新しい製品やサービスを通じて新規市場を創造する。しかし合理的な経営者であれば収益性の悪い小規模でかつ不確実な市場に参入することについて、説得力のある論拠を示す事が難しい。コストダウンが命題の成熟事業で何とか競争しながら、空振る可能性のある新しいビジネスモデルを探索する必要がある。組織文化も違え、矛盾するようにも見えるが、これを成立させた後にティッピングポイントがある。

例えば、Netflix VSブロックバスターの事例。Netflixは新事業を成功させるために、既存事業とのカニバリゼーションも辞さなかった。郵送DVDレンタルの売り上げを犠牲にし、動画配信へ。

1848年創業の時計メーカーオメガは1960年代半ばに電子式時計のアイディアを探るためヌーシャテル大学に補助金を出した。研究者は電子式時計に必要な特許を取得しオメガに提供しようとしたが、オメガは申し出を断った。その後、その特許は日本の服部時計店、現セイコーホールディングスとライセンス契約。それからスイスの時計産業が崩壊し、800社が倒産。新しいCEOにニコラスハイエクが起用されてようやく持ち直しているが、こうした事例も紹介される。

大手航空会社と格安航空会社は、多くは大手が格安航空会社を買収したりLCCを設立するなどして共存態勢に入ったが、基本的な組織能力は同じながら顧客セグメントが異なっていたため、結果としてうまく運用できなかった。LCCの経営ではスピードと柔軟性が求められるがサービスは求められない。フルサービスの航空会社は逆。2つの組織では人材、指標、インセンティブ、文化のタイプが全く異なっている。結果的に対立や運営上の混乱が生じたケースもある。またLCCの低収益事業からのリターンを理解されなかったケースもある。

多くの企業では研究開発部門がアイディアを創出する業務を担っている。しかし多くの場合、既存の利益を維持しなければならないと言う考えから新しいものを開発するよりも、既存事業の改善に集中される。成熟事業のリソースをいかに新規事業に振り分けるか。情報共有のモチベーションも上がらない。至近、こうした課題につけんだ舶来のSFAがプラットフォーム利権を得ようと、日本のサラリーマン企業に侵食してきている。よくよく考えて導入すべきだろう。

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感想投稿日 : 2023年1月14日
読了日 : 2023年1月14日
本棚登録日 : 2023年1月7日

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