実力も運のうち 能力主義は正義か?

  • 早川書房 (2021年4月14日発売)
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「あなたが今掴んでいる地位はあなたの努力によるものか?」
”特権階級”と呼ばれるものは批判され、公平な競争が是とされる世界。"メリトクラシー"がもたらした社会の分断を追求する。
実は現代の学力偏重の競争制度は親世代の経済力と大きな相関があり、世代間の流動性の増加を十分に促せていない。選別制度としての学力試験は親の経済力によってハックされつつある。そして、学位の差は政治的分断の主因にもなっている。競争に勝ち残れなかった人たち、は社会の中で敬意を持たれず、十分な功績も得ない。現代の社会制度によって生まれた歪みが事例をもとに紹介される。

どんな制度であれ、高いところにいる人間は、”合法的なルール”の範囲内で自分の周りの人間に恩恵をもたらす努力をする。これもまた当然のことと思う。結局のところ公平さと社会全体の利益のバランスなのですが。個人レベルの合理性追求が社会全体の利益に反すようになると、それには規制が設けることになるけれど、過激ともいえるルールを設けることに社会全体を納得させられる合理性があるのか。
一方で資本主義・自由競争主義を少し離れた世界にいくと、世界中でいまだにコネ社会が残っている。これはこれで正当化が難しい。
この問題がもっともっと大きくなると、社会構造を変えようという動きが生まれる。今日のポピュリズムの隆盛はその一つで、最後は戦争のような”革命的”手段になってしまうのが最大の悲劇か。

私自身は本書の中でいう”高等教育を受けた人間”に値するわけですが、大学時代に周囲に新自由主義的経済システムを肯定する人がかなり多くてびっくりしたことがあった。でも自分自身も著者のいう”テクノクラート的うぬぼれ”には思い当たる節も多く、分断を生む一要因に加担していると自省させられた。
それに、もし子供ができたら教育に大きな資金を投じるだろうし、自分と同じくらいの学位を得ることを少なからず期待しそう。やっぱり個人的な合理性を追ってしまう。この問題は本当に難しいと感じるし、だからこそ読む価値があった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 社会学
感想投稿日 : 2022年7月31日
読了日 : 2022年6月4日
本棚登録日 : 2022年6月4日

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