1984年刊行。著者は北海道大学農学部助教授。
著者が高校教諭、院生時代より現地観察・資料採集を続けてきたイワナ。
本書はイワナを例にとり、外見上類似するが同一ではない複数種において、生態系とどう関わっているか。生息地や食性の差異が、種別如何にいかに影響するか、を解読する。
ゲノム的な近縁性に殆ど触れない点、また、現代では、環境への適応力の強弱という観点でダーウィニズムと対立するわけではないと考えられる今西流「棲み分け論」への言及の仕方は、やや時代を感じさせるものと言えそうだ。
しかし、そもそも自然選択という言葉が誤解を招くのかもしれない。つまり、ここでの選択とは、対抗種の一方の絶滅を当然の帰結とするわけではない。
換言すれば、自然選択とは与えられた具体的な環境への適応度を高める進化圧に過ぎず、環境への適応がままならず絶滅するのもあれば、適応が可能で棲み分けに見える結末に至るのもあるということなのだろう。
本書は「イワナ」という実例から帰納的に、この進化圧と環境適応度の有り方を切り取って見せる。結果、今西錦司流「棲み分け論」とダーウィニズムの止揚に繋がっているのだ。
ところで、内容の本筋とは関係はないが、著者のような生物学者の見せる生き物愛はホントに微笑ましい。
読書状況:読み終わった
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カテゴリ:
ノンフィクション
- 感想投稿日 : 2016年12月3日
- 読了日 : 2015年8月27日
- 本棚登録日 : 2016年12月3日
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