◆アメリカ発の経済学研究や、それに基づく経済学徒への教育スタイルが、学問としての単純化・矮小化を招いた。この弊害を憂う著者が、経済学の真の広範さ、豊潤さ、多様性を、世間に、中でも経済学徒に問いかける一書◆
2006年刊行。
著者は京都大学大学院経済学研究科教授(現代経済思想)。
アメリカから流入する経済学から多様性が失われ、それを学ぶ学生や、若手研究者から経済学の多様性への理解が失われた。結果、他説の長所への寛容さが失われるばかりか、自説のみを経済学全体と看做す、狭矮な視野と自己満足?にも見える言説が蔓延し、例えばそれは「規制緩和」「インフレターゲット」「民営化」の一元的流行に現出している。
元来、多様性と長所・短所を併有する経済学的言説が、一面的・独善的な有り方で、経済論議のみならず政策採用される危険が亢進する今。
この独善性は、経済学の標準的教科書の記述から多様な学説紹介が落ち、また若手の広範な経済研究書の読書量減少が、その根底にあるのだろうか?。
かような懸念を憂いた著者が、少しでも状況を改善すべく、元々多様性の存在した現代米国経済学につき、現在までの歴史的過程を素描し、その実を世に知らしめんと試みたのが本書である。
具体的には、
➀ 「レッセフェール」の問題を鋭く突き、米国経済学会の礎となったリチャード・イーリーから筆を起こし、さらに資本主義の適正化や社会的正義に関心を持った黎明期の経済学者の業績を説き起こす。
➁ ケンブリッジ学派を創出したアルフレッド・マーシャル、
➂ ケインズ、
➃ サムエルソン、
➄ ガルブレイス
と進ませ、
➅ ハイエク復活の意義と問題点、
さらに
➆ 「スウェーデン銀行経済学賞」(ノーベル経済学賞)の持つ偏頗性
を叙述していく。
著者自身、制度学派、あるいはポスト・ケイジアンに親近性を持つため、数理解析やモデル提示よりも、実証性と社会的正義・フェアネスへの感度の高い著作と言える。
当然、フリードマンらには手厳しく、例えば、引用だが「レーガノミクスにつき、平和時における最長の経済拡大をサプライサイド的実験の成果とは…見ないだろう。…大幅な減税による消費需要の盛り上がりに主導され、…歴史は、サプライサイド・エコノミーは…ケインズ主義の一種に過ぎなかったと結論する」
などというように、なかなかの痛快さである。
また、おそらく若手研究者や学生(特に経済学部)に対する応援・叱咤の書であるため、読ませたい参考文献は、少数ながらも重厚なものばかり。
私のように新書でお茶を濁そうなんて著者のお叱りを受けそうに感じられるほどだ。
もっとも本書自体は、経済学の大家の引用部分、こなれない翻訳文の理解し難い点を除き、叙述に無茶な難しさはなく、
➀ 制度学派とその復権傾向。
➁ フリードマンのような亜流ではなく、真の意味の新古典派経済学の理解。
➂ 問題解決のためのバランスに配慮したサムエルソン経済学(新古典派総合)。
➃ 異端ながら、経済問題を社会と学界に問うたガルブレイス経済学。
これらを素描するには適した書ではないだろうか。
殊に、エピローグとあとがきには、著者の問題意識が詰まっている。ここを読むだけでも、現在の経済学の狭小・矮小さ、そして歪曲の問題点に思いを致すことができるはずだ。
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- 感想投稿日 : 2018年5月18日
- 読了日 : 2018年5月18日
- 本棚登録日 : 2018年5月18日
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