2009年刊。
著者は2件の殺人罪で、刑期8年以上で犯罪傾向の進んだ受刑者を収監する「LB型刑務所」に服役中の人物。
女(異性)の他、美味く脂多きメシや甘味欠乏状態の受刑者の日常生活を赤裸 々に開陳する書である。
著者の性格か、悲しい現実を笑いで誤魔化し塗そうとする意図か、その書き振りはくすくす笑いが思わず起きてしまうほどだ。あるいは長期の収監が、刑務所内の出来事を日常に変貌させてしまった結果とも言えそう。
しかし、受刑者の模様は様々。高倉健を地で行く漢気満点のナイスガイから、他人のちょっとしたところを妬み嫉む人、被害者の事を真摯に思う人から、長期処遇に追いやった存在として被害者に言われなき憎悪の念を燃やす人。刑務作業黙々とこなしながら、年間のスポーツ大会で思いもかけぬ力量を発揮する者。囲碁・将棋に熱を上げ玄人はだしまで上達した者。生活の何でもかんでもをギャンブルに仕立て上げる者。そして刑務官にわけもなく食って掛かるモンスター化も、社会のそれと踵を同じくとして増えてきている。
このような多様な受刑者の存在は、卓越した観察眼とともに、表現力・描述力とが伴わないと叙述できないだろう。
幼い頃から本の虫であった著者。僅かな余暇時間の中、新法施行前は年間96冊、施行後は、月当たり単行本50~70冊、雑誌40誌、新聞5誌(英字・証券含む)を読破している著者だからこそできたともいえる。
ともあれ堅苦しくない叙述に比し、刑事政策という観点、刑罰目的論を考える上で示唆に富む(嘘)かな?…。ただし犯罪被害者など、俯瞰的ないし第三者的に受刑者を見ることが無理な人には、本書をお勧めはできない。
ところで、服役中の資格取得、学習や職業訓練、経済における常識的知識や社会生活上の知恵や知識にもう少し時間と刑務所機能の配分を割くべきではとの指摘には、刑が開けた後の社会との接合性を考えると、尤もと言わざる得なかった件。浦島太郎状態で社会復帰した時に、再犯をしない頼りできのは血縁という原初的社会関係と、食いッぱぐれない生きる力なのだから。
- 感想投稿日 : 2018年4月20日
- 読了日 : 2018年4月20日
- 本棚登録日 : 2018年4月20日
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