定本納棺夫日記 2版

著者 :
  • 桂書房 (2007年7月1日発売)
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感想 : 15
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「納棺夫日記」は、本木雅弘主演の映画「おくりびと」の原作だとずっと思っていたが、今回、実際に「納棺夫日記」を読んで、映画とは異なる内容にとまどった。Wikiで調べてみると、実際の経緯は以下のようなものであったらしい。
本木雅弘は、「納棺夫日記」を読んで感銘を受け、筆者の青木新門を訪ね自ら映画化の許可を得る。ところが、その後、映画の脚本を見せると、青木新門の納得を得ることが出来ず映画化を拒否される。最後に青木からの「やるなら全く別の作品としてやってほしい」との意向を受け、「おくりびと」というタイトルで、「納棺夫日記」とは別の内容で、別の作品として映画化されることになった、というものである。
映画「おくりびと」の公開は2008年、私が観たのも随分以前の話なので、ストーリーの詳細は忘れていたが、とても良い映画だったという記憶がある。今回、「その映画の原作である」と誤解したまま本書を読んだので、とまどったのである。本書を読む前は、映画の原作であるというイメージを持っていたので、「納棺夫としての仕事の日常」を描いたものだと思っていた。もちろん、そういう部分や、その背景となる筆者のこれまでの人生についての記述もあるが、でも、筆者の書きたかったのは、宗教についてであったように思える。
最後の方は、宗教家的なかなり専門的な話になり、なかなかついていくのが難しい内容となる。ただ、その前提としての筆者の疑問、「死に近づいて、死を真正面から見つめていると、あらゆるものが光って見えるようになる」のではないかということを説明し、そのことについての思索に多くの紙数が割かれている。
そのような経験をした多くの人たちの証言(実際には作品)を紹介しているが、その中でも、1965年に癌でなくなった高見順が死の1年前に発表した詩が印象深い。
【引用】
電車の窓の外は
光にみち
喜びにみち
いきいきといきづいている
この世ともうお別れかと思うと
見なれた景色が
急に新鮮に見えてきた
この世が
人間も自然も幸福にみちみちている
だのに私は死なねばならぬ
だのにこの世は実にしあわせそうだ
それが私の心を悲しませないで
かえって私の悲しみを慰めてくれる
私の胸に感動があふれ
胸がつまって涙がでそうになる
・・・・・・・・・・・・・・・
【引用終わり】
このような境地に至れた人は幸せだと思う。そこに至るまでの道筋をどうイメージするかが宗教観だと筆者は主張し、その具体的内容について解説しているのだと理解したが、やや難解。
あまり考えたこともないようなことに触れることが出来たという点では新鮮ではあった。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2023年10月1日
読了日 : 2023年10月1日
本棚登録日 : 2023年9月28日

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