怪奇探偵小説集 1 (ハルキ文庫 あ 4-1)

著者 :
制作 : 鮎川哲也 
  • 角川春樹事務所 (1998年5月1日発売)
4.08
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本棚登録 : 43
感想 : 9
4

全体として昭和の文学文体がツボすぎる。

私は大学時代民俗学なんか専攻してただけあって大層な懐古趣味でして、こういった戦前の文章なり風俗なりが大好きだったりします。
「ドグラ・マグラ」とかも好きです(読みにくくて読むのに一年くらいかかったけど)。鮎川先生ぐっじょぶ! 解説も最高でした。

あとほぼ一人称形式の話ばっかりだったんですが、当時の流行というか主流はやっぱ一人称だったのかな。
でもまあワトソン役もしくは案内役が語る形式がやっぱ探偵小説の醍醐味ですよね。王道万歳。

実はこの本は先日整理してた父の古い蔵書から貰ってきたモノなんですが、思わぬめっけもんでした。いいもん拾った…!
以下ネタばれ感想です〜。










「悪魔の舌」@村山槐多
ラストまで読まなくてもオチが読めてしまうんですが、わたしは結構こういうの好きです、ベタベタな上に濃くって(笑)。
タイトルからうっかりホームズを連想しましたが、あれは「悪魔の足」でしたね。

「白昼夢」@江戸川乱歩
流石の大御所。いかにも乱歩ぽい一作です。

「怪奇製造人」@城昌幸
何故かこの話は知ってました。
以前読んだことあるんですが一体どこで読んだのだろう。謎です。
でもほとんど寸分違わず記憶に残ってました。

「死体蝋燭」@小酒井不木
どっちかというと落語っぽい印象を受けてしまうのは舞台立てが寺で和尚さんと小僧さんが出てくるからでしょうか(笑)。
なかなかの洒落っ気です。

「恋人を食う」@妹尾アキ夫
系統としては「悪魔の舌」と一緒。やっぱ人喰いって魅力的なテーマなのかなあ(←私は興味ありませんが)。
鮎川先生も解説で書かれてましたが確かにこちらの方が同じ食人テーマでも洗練されてますね。最後にニヤリ。

「地図にない街」@橋本五郎
貴族って不条理…。こういう都会の隙間をすり抜けた生活の描写って好きです。多分わたしがシャーロッキアンなことに関連があるのではないかと。日常の中の非日常って魅力的です。
にしても貴族ってひどいよなあ…。

「生きている皮膚」@米田三星
一瞬人面疽?と思ったんですがそういう話ではありませんでした(笑)。
でもまあ淳子さんは皮膚に復讐されたんだしなあ…ホラーかな?
呪いの連鎖つうか恨みの連鎖つうか。
皮膚移植のとこは非常に痛々しい話だった。

「蛭」@南沢十七
この短編集の中で個人的には一番気持ち悪い…というかイタイ話でした。イマイチオチがはっきりしない感もあるのですがまあこういう話では不気味さがより誇張されていいような気も。
吸血療法ってなんだよ〜(笑)。

「恐ろしき臨終」@大下宇陀児
老弁護士が哀れ過ぎる…。てか最後の最後で突然全くの第三者がババーンと犯人として名乗り上げるあたりかなりミステリとしてはアンフェアなような気が(大笑)。でも語り口は好きな感じです。島田御大の「龍臥亭事件」みたいな舞台立て。乱歩にもこんな話あったような。

「骸骨」@西尾正
妻を亡くした性欲の強いあまりのオナニストって…!(爆笑)
しかも表記は「Onanist」です。これだけでももうかなりすごいんですが、まあオチとしては普通かな〜。こういう横文字混在のケレン味たっぷりの語り口はわたしは好きだ。機会があったらやってみたいんですが教養がないと普通に難しそうなんだよなあ…。

「舌」@横溝正史
横溝にしては泥臭さのない作品。むしろ洒脱で美しくかなり好みの短編です。鮎川先生じゃないですが確かに乱歩の「白昼夢」と通じるところが。余韻がいいです。

「乳母車」@氷川瓏
実はこの短編集で一番好き。掌編なんですが物凄い雰囲気あります。幻想小説もたまにはいいよなあ〜とか思ってて、そういえば自分が泉鏡花好きだったことを思い出しました。

「飛び出す悪魔」@西田政治
ある意味戦前探偵小説の王道。サーカスが舞台なあたりとかもうたまりません。登場人物の名前のつけ方が好きかな。昔のサーカスの謎めいたいい意味で胡散臭い雰囲気が存分に楽しめて良。

「幽霊妻」@大阪圭吾
犯人力士ってさ!(爆笑)短い中で全ての謎や伏線にきっちりカタをつけているあたりは確かに将来を嘱望された探偵小説の担い手だなと感心しました(若くして戦死なさったとのことです)。それでもオチでどうしても京極先生の「どすこい。」を思い出してしまうわたし…。ごめんなさい。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ミステリ
感想投稿日 : 2010年2月22日
読了日 : 2005年6月23日
本棚登録日 : 2005年6月23日

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