授業の復権 (新潮新書 57)

著者 :
  • 新潮社 (2004年3月1日発売)
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感想 : 10
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 力強いタイトルに惹かれて読んだ。学校の中心はあくまで授業であるという考えを基本にし、さらに授業を授業者の技術という面から掘り下げていく。筆者の姿勢にはブレがなく、ひとつは政治や思想を教育に持ち込まないこと、もうひとつは競争させるべきところではきちんと競争をさせることである。その上で本書は、優れた授業実践家数人を、提唱する授業技術を中心に紹介していく。

「BOOK」データベースの説明がとてもわかりやすいので引用しておく。「 子供たちの学力低下は、授業時間や学習量の減少だけが原因ではない。教師の「授業」技術そのものが低下しているのが最大の問題なのだ。いま必要なのは制度改革ではなく、「授業」という観点に立った真の教育改革である。戦後教育史を振り返ると、子供たちの学力向上に命をかけてきた「授業の達人」たちがいる。創意工夫と情熱にあふれる彼らの実践にもう一度光を当ててみたい。そこに学校再生のためのヒントがあるはずだ。」

 取り上げられている人たちは、いずれも名前を聞いたことがある人たちで、その実践も聞いたことがある者がほとんどである。授業を「技術」ということから考えるとき、決して書かすことができないビックネームを丁寧に取り上げているという感じである。ざっとしか知らなかった先達の業績をきちんと、しかもまとめて知ることができるのは実にありがたい。細かいところではっとさせられることも多く、とても刺激的であった。

 筆者の意見そのものに、上から下まで完全に同意できるわけではない。ところどころにちょっと引っかかるところがないわけでもない。それでもなお、特に若い先生にはこの本を一読することをおすすめしたい。各章で取り上げられている実践のひとつにでも興味を持ったら、そこから詳しく勉強していけばいいのだと思う。筆者の言うとおり、民間の授業技術研究会はずいぶん少なくなってきている。また、教員の年齢構成がいびつで、一昔前の教育技術の継承が難しくなっているのも確かだ。そういう点で、大変価値がある「まとめ本」になっていると思う。興味深い本であった。

目次
序 章 授業こそ学校の魂
第一章 「仮説、推理、検証」で学ぶ科学の心
──仮説実験授業 板倉聖宣──
第二章 「目に見える」算数への革命的転換
──水道方式 遠山啓──
第三章 「書く」「読む」「話す・聞く」で本物の国語力
──鍛える国語 野口芳宏──
第四章 教科書を教科書通り教えよう
──教育技術法則化運動 向山洋一──
第五章 類型化、そして反復が起こした奇跡
──百ます計算 陰山英男──
第六章 「一個のハンバーガーから世界が見える」
──「よのなか」科 藤原和博──
終 章 教育論争の忘れ物
参考文献

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 教養・解説
感想投稿日 : 2013年2月3日
読了日 : 2013年2月3日
本棚登録日 : 2013年2月3日

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