プーチンの実像 証言で暴く「皇帝」の素顔

  • 朝日新聞出版 (2015年10月20日発売)
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感想 : 10
5

ネット上には真偽のほどが定かではないプーチン伝説が溢れている。
例え9割がデマだとしても「プーチンならありえる」と納得してしまうこ
ともしばしばだ。

ただ、本書はそんなプーチン伝説ではなくとっても真面目な評伝だ。
実際にプーチンを知る人々の証言を集め、朝日新聞朝刊に連載さ
れた記事に大幅加筆して書籍化された。

連載中も毎回楽しみに読んでいたのだが、こうして1冊の本にまとまる
とロシア大統領プーチンという人はとことん興味深い人物だ。

KGBの元スパイ。スパイ好きの私にはこれだけでも興味をそそる存在
なのだが、政治経験ゼロで大統領にまでなってしまったのだもの。

KGB時代は決して優秀なスパイだったのではない。派遣されていたの
は旧東ドイツのドレスデン。そこで東ドイツの崩壊に立ち会った。

故郷サンクトペテルブルクへ戻り、サプチャーク市長の下で第一副首相
を務めていた時にソ連が崩壊した。このふたつの国の崩壊に立ち会った
ことが大きな影響を与えたのかもしれない。

ただ、KGB時代、共産主義には批判的であり、サンクトペテルブルク時代
には西側の銀行などを誘致し、市場開放には積極的だった。

夢見たのは西欧型の自由経済。だが、国家が転覆するのだけは我慢が
ならない。そんなところか。だから、プーチンがやろうとしているのは決して
ソ連の復活ではなく、あくまでも「強いロシア」なのだ。

それは「世界一のお金持ち」と言われたロマノフ朝への回帰と見るのは
蝶々うがった見方かもしれないけれど、プーチンは「大統領」と呼ぶより
「皇帝(ツァーリ)」と呼ぶ方がふさわしいような気がする。実際、私は
普段「閣下」と呼んでるしね。

それにしても本書で証言している人たちのプーチンに対する意見が
極端に割れているのはおもしろい。とことん批判的な人、とことん好意的
な人ってなっている。

これもどの視点で見るかで変わって来るのではないかな。アメリカ寄りの
視点だと「独裁者、悪魔」になるのだろうし、ロシア視点では「救世主であ
り、頼りになる大統領」だろうしね。未だ80%という高支持率を誇っている
のだから。尚、ロシア・メディアが骨抜きにされている件は問題だけど。

元々が新聞記事なので一般的なプーチン入門というところだね。これまで
もプーチン関連の作品を読んでいる人には物足りないかもだけれど、彼
のこれまでの足跡を追うにはいい。

尚、何故プーチンが森喜朗がお気に入りなのか謎だったのだけれど、
森喜朗のお父様が日本とロシアの友好に尽力し、ロシアに分骨され
ているとのエピソードが閣下のお気に召したらしい。一緒にお墓参りを
している写真が本書にも掲載されていた。

森喜朗は好きではないが、プーチンに率直にものを言えるところは見直し
たわ。そういえば、以前、サンクトペテルブルクにアイスホッケーの世界
選手権を見に行った時、VIP席にプーチンと並んで森喜朗が座っていた。

「こら~、森~。その席、私と替われ」と叫んでいたことは内緒である。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 未設定
感想投稿日 : 2017年8月24日
読了日 : 2016年12月13日
本棚登録日 : 2017年8月24日

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