『ドリアン・グレイの肖像』のラストに衝撃を受け、『幸福な王子』では
つばめの自己犠牲に涙した。ヘルムート・バーガー主演の映画版
『ドリアン・グレイ』を観たのは遥か昔。
オスカー・ワイルド。アイルランドに生まれた作家にして詩人。そして、
ヴィクトリア朝の道徳観と階級主義の人身御供になった人。
彼の生涯を追ったのが本書なのだが、同性愛の罪で裁かれた
「ワイルド裁判」に重きを置いているようだ。
そこへ辿りつくまでの章は、彼を取り巻く人々や、その時代の思想・
風俗・文化の描写で寄り道が多い。まぁ、バック・グラウンドを知る
にはいいのだが、ワイルド本人を知りたくて手に取ったのでちょっと
物足りないかなぁ。
同性愛と、下層階級との付き合いを問題視されたワイルド。裁判で
は有罪を宣告され、ダンディズムを貫いた彼は投獄される。
数々の著作と、アメリカでの講演で時代の寵児となったワイルドも
出獄後は貧困と病に悩まされる。
大英帝国を離れることを余儀なくされたワイルドは、パリで病に
倒れ帰国すること叶わず他界した。46歳だった。
朦朧とする意識の中で、自分を追い詰めたイギリスへ帰ることを
望んだワイルドが哀しい。それにも増して切ないのが、彼の妻
であったコンスタンスだ。
資産家の娘であった彼女は、ワイルド裁判の後、ワイルドを名乗る
ことを止めたが破滅した夫の身を案じ、自分の死後も夫に幾ばくか
の金が渡るように手配している。
あと100年、ワイルドが遅く生まれていたら裁判にかけられることも
なかったのだろうな。でも、100年遅く生まれていたら、時代の寵児
になっていたかは分からないけれど。
- 感想投稿日 : 2017年8月19日
- 読了日 : 2013年6月29日
- 本棚登録日 : 2017年8月19日
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