誰か助けて 止まらない児童虐待 (リーダーズノート新書 G 303)

著者 :
  • リーダーズノート (2011年4月29日発売)
3.90
  • (11)
  • (9)
  • (6)
  • (1)
  • (2)
本棚登録 : 90
感想 : 12
5

目次がいい感じだったので購入したが、予想以上の良書だった。

「はじめに」で一般的な「加害者批判」「児相批判」「公務員批判」を想起させているが、その後の展開でそれを覆していくだけでなく、報道では伝わらない非常に細かい、だけど重要な問題点にも的確に言及している。
特に重要なのは、「虐待の連鎖」という言説について。つまり、虐待によって子どもが大きな影響を受けて、それが巡り巡って次世代への虐待に繋がることはあるかもしれないが、だからといって虐待された過去=子ども虐待リスクではないという、微妙な違い。

また構成の話に戻ると、本来子どもを守らなければならないとされている人々(ここでは、「母親」、「保育園」、「小学校」、「児童相談所」など)へのインタビューを通じて、現場の構造的な問題や、虐待問題に関わる人々の葛藤が浮き彫りにされていく。
この過程で、タイトルの「誰か助けて」が決して子どもだけの声ではないことが少しずつ見えてくる構成は見事。

また、例えば小学校の例で、現場で子どもに接する教師と、管理職とでは、問題に対する認識・態度が違っていて、且つどちらも正しいという葛藤をきちんと両者の目線から明らかにしている点は素晴らしい。
第6章でも、世間から多くのバッシングを受ける児相の抱える問題をきちんと捉え、ただただ強制的介入の必要性を訴える論調を冷静に批判している。

惜しい点としては、
・学術的な論文の引用の仕方が甘いところ
・アメリカの方法論を無条件に肯定的に紹介している点。紹介するのであれば、アメリカ型の虐待対策の限界や、親子分離しても子どもを引き取る里親が多くいるという前提条件も同時に提示するべき(それでも日本の数十倍進んでるけど)。
・児相については、キャリアが長くて児相の問題を客観視できる人だけでなく、その人に批判されているような、急に児相に異動させられて右も左もわからない状態で勤務することになった人の意見も見てみたかった。

ともかく、とても良い本だった。虐待のニュースに触れて「子どもが可哀想!」などと言って、虐待の厳罰化や児相批判に走る人には、賛否は別にして、まずこれを読んで欲しい。
タイトルにある「誰か」とは、この社会に生きる一人ひとりであって、他の誰でもないということを分ってもらいたい。

今度は同じ著者に、虐待防止ネットワークの成功事例や、子どものケア、ペアレンティング・トレーニングや、大人の自己肯定感の醸成の必要性などについても著してもらいたい。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 虐待
感想投稿日 : 2012年2月5日
読了日 : 2011年7月27日
本棚登録日 : 2012年2月5日

みんなの感想をみる

コメント 0件

ツイートする