昭和陸軍全史 1 満州事変 (講談社現代新書)

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  • 講談社 (2014年7月18日発売)
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感想 : 23

 張作霖爆殺から塘沽協定までを扱い、同著者の『満州事変と政党政治』とほぼ重なる。
 関東軍(実際には板垣・石原中心)+永田ら一夕会系中堅幕僚 vs. 若槻+南・金谷ら宇垣系陸軍首脳、という構図で語る。若槻は弱腰だったわけではなく、時に揺れる南らとの連携の維持を図り不拡大に努力する。しかし最終的に内閣崩壊、その影には一夕会から安達内相に働きかけがあった可能性も。
 若槻内閣崩壊と宇垣系の一掃による陸軍内権力転換は、組織的な政治介入を行う「昭和陸軍」の始まりとなる重要な意味を持った。
 若槻への大命再降下ではない犬養内閣誕生と五・一五事件後の超然内閣には、西園寺が陸軍の意向を念頭に置いたことも一因。また犬養が軍の統制のため天皇に働きかけたことに宮中側近は否定的で、また軍部急進派の憎悪を買い五・一五事件の重要な背景の1つとなる。
 永田自身の満洲事変への関わりは、いつかはやるのであり準備が必要だが、全て永田の計画というわけではなかった、というのが著者の評価。
 今村均は一夕会系ではないが永田と近く、作戦課長に就いたのも作戦行動を予期する永田の意向とする。しかし今村自身は北満進出反対など不拡大に尽力。朝鮮軍越境後、今村は陸相の承認を得た参謀総長の単独帷幄上奏により事後承認を得ようとするが、軍事課長の永田は閣議なしの帷幄上奏に反対してこれを止める。一見意外だが、著者は永田が陸相ひいては中堅幕僚を通じた政治介入の方針 だったためだとする。
 本書後半では永田と石原の構想をそれぞれ解説。この部分は同著者の『昭和陸軍の軌跡』と重複する。両者は満蒙確保の必要性では共通。しかし永田は欧州発の世界戦争不可避論とそれに備える国家総動員を重視。石原は日米最終戦争は不可避だがその前の戦争には不介入が可能と考えていた。武藤は永田を継承し、田中新一は永田の影響下にありつつも石原の影響も。著者はこのことが、日中戦争拡大について石原と武藤、対米開戦について武藤と田中のそれぞれ違いを生じさせたとする。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: 日本
感想投稿日 : 2021年5月16日
読了日 : 2021年5月16日
本棚登録日 : 2021年5月16日

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