03年刊。国際政治の概説書と言うより、その性質を見る視座を提供する本。読みやすいが抽象的でもあり、奥行きは深い。
著者は国際政治を、主権国家体制・国際共同体・世界市民主義という3つの位相の複合体と捉える。その上で、著者は自らの立場を「保守的と見なされるかもしれない」と自覚しつつも、主権国家体制を基本とした伝統的な国際政治の意義をなお認める。冷戦終結とグローバル化進展の認識がなおあっただろう03年という出版時期のためかもしれない。しかし、中国の影響力増加やBrexitがある今日、やはり著者の立場は妥当だったと思える。また著者は、「現代の電気的メディアによるコミュニケーション技術」が地球市民を生み出す、との論に批判的で、むしろ小さな集団で自己確認を強める傾向をもつようだ、と指摘している。これまた、著者の論が妥当だったと言えるだろう。
他方で著者は、主権国家体制での問題解決を絶対視もしていない。内戦に対しては、国際社会の関与とそのための手段としての国際機構=国際共同体の有用性も認める。人権問題については世界市民的感情も認めつつ、同時に強制的民主化や人道的介入の範囲拡大の危険性も指摘する。要はバランスが重要だと考えているようであり、この点は師の高坂正堯に通じるかもしれない。
読書状況:読み終わった
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- 感想投稿日 : 2021年1月24日
- 読了日 : 2021年1月24日
- 本棚登録日 : 2021年1月24日
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