本書ほど現実的な平和主義(この言葉が奇異に感じられること自体、これまでの平和主義論のおかしさを示している気がする)は初めて目にした。
筆者は個人的心情としての「絶対平和主義」と政治的選択としての「平和優先主義」を区別し、後者、具体的には戦争は基本的にコストに見合わないという帰結論に戦争=殺人=悪という義務論を加味した立場に立つ。しかし「非平和主義」である正戦論でも現実主義でも人道介入主義でも、戦争を絶対的に肯定はしておらず、正当化しようがない、コストに見合わない戦争や軍備保持には賛成しないだろうし、戦争による人命を含めた被害に全く無頓着でもないだろう。また筆者はデモクラティック・ピース論を一応肯定しつつも、民主主義により好戦性が高まった例もきちんと指摘している。そうすると結局、平和主義と非平和主義は別次元ではなく一続きの線で、ある戦争を肯定するか否かはそのpro/conをどう分析するか次第ではないかという気がしてくる。筆者の言うように、特に帰結論は両者が「有意義な対話をする際の蝶つがいの役割を果たしうる」のである。
読書状況:読み終わった
公開設定:公開
カテゴリ:
その他
- 感想投稿日 : 2013年6月6日
- 読了日 : 2013年6月6日
- 本棚登録日 : 2013年6月6日
みんなの感想をみる