バブル:日本迷走の原点

著者 :
  • 新潮社 (2016年11月18日発売)
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1980年後半から1990年までに発生した日本のバブル。本書は、バブル期の前後を通じて多くの関係者に取材した著者が、主な登場人物と事件についてあらためて自らの見解を交えて振り返ったものである。日経の記者であった著者は、そのときのバブルを国民ぐるみのユーフォリア(熱狂)と呼ぶ。

自分にとっては、バブルは大学生の時にその絶頂を迎え、そして崩壊していったものである。そのときには、ここで書かれたような裏の事情はもちろん表の事情もほとんどわからなかったし、おおよそ興味もなかった。しかし、そのときにこそもっと知っておくべき事柄であったと思う。もちろん、今でも知るべきことであることは変わっていないのかもしれない。「バブルの時代を知ることなしに、現在の日本を理解することはできない」という著者の主張が読み終わった後にはっきりとそうだとわかるだろう。

振り返ると著者が挙げるようにそれぞれのプレイヤーに次のようなミスや瑕疵があった。
・上げるべきところで金利を上げなかった日銀の罪
・機関投資家に株を買うように誘導した大蔵省の罪
・不動産融資にのめり込んだ銀行の罪
・特金・ファンドラをリスクなき財テクのように扱った事業会社の罪
・会社の価値を収益ではなく含み資産で計算した証券会社の罪

そうした中にあって著者は「誰が何にチャレンジしていたのか、そして何に敗れ、何を否定されたのか。バブルの時代という大きなうねりのなかで、敗れて行った人たちや、否定された人たちの行動の中にこそ、変革への正しい道筋が埋もれているのではないか」という。そうした問題意識の中で著者が堀り起こすこととなった人と出来事は多岐にわたる。

三光汽船によるジャパンライン株の買占め、プラザ合意、ブラックマンデー、レーガノミクス、サッチャリズム、NTT株公開、リクルート事件、山一証券破綻、そごう問題、興銀・長銀破綻、阪和興業、秀和事件、特金・ファンドラ、株式損失補填、イトマン事件、イ・アイ・イ事件、公的資金投入など。

バブルを彩った政治家、経営者も数多い。児玉誉士夫(右翼)、高橋高見(ミネベア)、磯田一郎(住友銀行頭取)、成田芳穂(山一証券)、竹下登(大蔵大臣、総理大臣)、渡辺喜太郎(麻布土地グループ)、高橋治則(イ・アイ・イ)、佐藤行雄(第一不動産グループ)、江副浩正(リクルート)、是川銀蔵(伝説の相場師)、加藤暠(誠備グループ)、小谷光浩(光進)、小林茂(秀和)、尾上縫(投資家)、橋本龍太郎(大蔵大臣、総理大臣)、三重野康(日銀総裁)、宮沢喜一(大蔵大臣、総理大臣) 、そして著者の父でもある永野健(日経連会長)。

色々な要因があったが、日本のバブルを特異なものにしたのは土地神話であった。実家の大阪辺りでもマンションを買って大儲けをしている人が身近いるという話を聞いていた。「バブル崩壊後の「失われた20年」と呼ばれる日本経済の長期低迷と、銀行の経営危機の大きな原因が、1986年から89年にかけての土地をめぐる取引にあったことは間違いない。...銀行の節度を越えた土地融資への傾斜だった。最終局面の日本のバブルを、他の外国のバブルと分かつ重要なポイントである」ー 1989年末に史上最高値を付けた株価は90年に入ると急落したが、土地価格はその1年半後まで維持され、その後急落することとなった。

東京23区の地価がアメリカ全体の時価総額を上回る。1株50万円弱と評価したNTT株が119万7000円で売り出され、上場後には318万円を付ける。大手都市銀行の一行あたりの時価総額が、世界最強と言われた米国のシティバンクの時価総額の5倍となる。小金井カントリー倶楽部の一口あたりの会員権が3億円を超える。これでバブルの兆候が見えなかったのは今から思えば不思議だが、バブルとはそういうものなのだ。「バブルは同じ顔をしてやってこない。しかし、われわれは生きている時代に真摯に向き合わなければならない。だからこそ、日本のバブルの歴史を今一度学び直す必要があると思う」

著者は安倍政権に「謙虚さ」が足りないと指摘する。どこかバブルのときと似ているという。そして、最後に問う「安倍総理に、黒田日銀総裁に、かつて公的資金を投入しようとした宮沢喜一と三重野康のような洞察と責任感は果たしてあるのだろうか。自省の心が欠けていると思うのは私だけだろうか」
このことが著者がこの本を世に問うこととなった最大の理由なのかもしれない。


多くの登場人物がここ数年のうちに鬼籍に入った。その今だからこそ書けるものもあるのかもしれない。具体的に没年を明示されているのは次のような方々だ。

2013年 大蔵省 窪田弘
2013年 リクルート 江副浩
2013年 トヨタ 豊田英二
2014年 秀和 小林茂
2015年 裁判官 滝井繁男
そして、この本をちょうど読み終わった2016年12月加藤暠が亡くなったというニュースが入ってきた。

歴史となりつつあり自らも同じ時間を生きていた時代を描いていて、とにかく非常に面白い。お勧め。

読書状況:読み終わった 公開設定:公開
カテゴリ: ビジネス
感想投稿日 : 2016年12月24日
読了日 : 2016年12月10日
本棚登録日 : 2016年12月2日

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